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第25話 こんなことしたくない

 で、そのまま画面見ていたわけなんだけども。また集中出来ないってことに。 「あ、あのさ……谷本?」 「周って呼んでみそ?」 「しゅ……しゅう……や、あのな」 「何? カズ」  いつの間にか名前呼びされてるー!  いやいや、問題はそこじゃなくって、だな。  さっきまではパン食ってたから片腕が腰に巻きついていただけだったんだけど、もう片方の手がっ手がーっ!  シャツの裾から上へ上へと、腹を撫で擦っていて。 「すべすべしてて気持ちいいな、カズの肌」  艶めいた声が耳元で囁かれるんだけど、俺相手に使うスキルじゃねえだろそれ。 「っん、」  指先が、今まで他人に触れられた事のない突起を軽く押して、その周りをくるりと刺激されてぶるりと体が震えた。  くすりと笑む気配がして、柔らかいものが首に当たった。  うぇ? 何? 見えないけど、もしかして今当たったのって唇だったり!? 「か、からかうなよーもうっ」  体を捩って膝上から逃げようとしても、がっちり固定されていて殆ど身動き取れないときたもんだ。 「あのさ、そういうこと言ったりしたりは彼女にすればいいだろっ」  どうせ俺は見るからに童貞キャラでいじられ役なんだ。 「彼女なんていねえよ?」  チュッてリップ音がしてそのまま軽く歯を当てられて。 「嘘付けー。だって首筋のあれ……」 「あれつけたのただのSFだしー」 「SFってスペースファンタジー……じゃなくてサイエンスフィクション……」 「カズってホント面白えな」  くくっと喉の奥で笑った音がして、はむっと耳朶を甘噛みされて「セックスフレンド」と耳の中に落とし込まれる。  カチンと硬直してしまった俺の体をまさぐっていた手の平が、スウェットの中にするりと入って行くのに気付いた時には、もう肝心のところをやんわりと握りこまれていた。  どひーっ! そここそ本当に他人には触られたことなくて、てか医者にだって触られたくない場所であってですね! でも急所なのは確かなんで下手に抵抗も出来ないわけですが。 「や、やばいって、冗談、だろ? も、ここまでで止めよ?」 「流石にまだ勃ってないか……」  ええまだふにゃチンですけども。じゃなくてー! 「カズ知ってる? 男同士の方が気持ち良くしてやれるんだぜ?」 「ふぇ? な、なんで?」  手が、ゆっくりと上下に動き始める。 「だって、自分が気持ちいいようにしたらいいんだからさ」 「あ~成る程……んんっ」  芯を持ち出したその部分を擦り続けられると、人の手でされたことのない俺はすぐに雫を垂らし始めたらしい。それを先に塗り広げるように親指の腹で刺激される。  確かにキモチイイな……。 「ふ、ぅ」  吐息が、熱くなる。体から力が抜けて、ぐったりと体重を預けてしまっていた。  いつの間にか下ろしていた瞼を上げると、真っ暗なままの正面のモニターに、そんな俺の姿とそれを抱きかかえている周の姿が映りこんでいた。  お互いに顔は見えないわけだけど、そこに映っている事に周も気付いていたらしく精悍な目が爛々と輝いている。  不意に、恐怖が湧き起こる。  俺、流されかけてるけど、このままいったらどうなる?  そもそも周はなんで男の俺相手にこんなことしてるの? SFとやらがいるなら、そういうこと何も今しなくたって十分間に合ってるよね?  その気持ちはダイレクトに反映されて、硬くなっていた部分が一気に萎える。 「ん? どした?」  訝しげに周が俺の顎を持ち上げて、直接目を合わせて確認してきた。 「周は……どうして俺にこんなことすんの?」 「気持ち良くしてやりたいからに決まってる」 「こんなことしなくても、一緒に練習してくれるだけで十分気持ちいいよ?」 「それとこれとは違うだろ」 「違うけど、こんなことするのも違う……」  泣きそうだ。  俺、周のこと嫌いじゃないし、こんなことされても本気では抗えない。  友達同士で抜きっことか、実はよくあることなのかもしれない。でも俺の中では普通じゃない。  脳裏を智洋が掠めていった。  ああ……あれだって本当は友達同士ですることじゃねえよな。でも、何か違う。あの時の智洋と、今すぐ傍に居る周と。周の方が密着してるし、際どいトコまで触られているってのに、受ける熱が、視線が、違う。  それが何かなんて俺にも解らない。けど、今、周とこんなことしたくないのは確かだ。

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