背後で、空気が動いた。一気に室内の人口が増え、ぱたぱたと足音が近付いてくる。 「ああ、やっぱりここでしたねえ。私の推理力も大したものです」 「何が推理だ。聞き込みの成果だろうが」 　昨日知り合ったばかりでも、聞き間違えようもないこの特徴的な喋り方。小橋と間野だ。 　チッと舌打ちして周の手が服の外に出て行く。 　一気に弛緩した空気に安堵する。 　た、助かった～……。 「でもお連れの方もいらっしゃるようだし、午後の方がいいんじゃないですか？」 　しげくんの声も近付いてくる。 　あ、安心するのはまだ早かった！　俺ってば周の膝の上に座ったままなんだった。変だよな、やっぱ。 　身じろぎするも、まだ腕は緩まない。どうするよ～……。 「取り敢えず約束だけ取り付けておこう。カズくん？」 　背後からも見えてはいたんだろうけど、黒板側まで下りてきた三人は正面から俺たちを見てやはり異様に思ったようだ。 　畳んだままの扇子で顎の先を突付きながら、間野はあからさまに顔を顰めているし、小橋は不快そうにフンと鼻を鳴らし、しげくんは目を丸くしてから視線を逸らせた。 「お、お取り込み中のようだね……」 「そのようですねえ」 「違うだろ、俺たちはナイスタイミングで現れた白馬の騎士ってとこだろ」 　今ならその自信満々な断言が頼もしいよ間野……安堵で涙出そう。 「一応確認しとくけど、それは合意の上での行為なんでしょうか？」 　小橋が腕を組んで首を傾げた。 　俺はぶんぶんと首を横に振る。 「恥ずかしがっちゃって……誘ったのはお前じゃん」 　うっ……確かにここに誘ったのは俺だけどもっ、こういうことしたかったわけじゃなくて。 「ちが……っ」 　否定しようとして、見せ付けるように唇が首筋に押し当てられる。眼前の二人が気色ばんだ。 「邪魔、どっかいけよ」 　周の言葉に、また小橋が口を開く。 「残念ながら、この教室の正式な使用権は現在我が同好会にあります。出て行くならあなたの方ですよ」 　ふえ？　そ、そうなの？　確かに俺は先生とかに使用許可取ったわけじゃないけど。 「あっそ、じゃあ出てく」 　がっちりと俺の腕を握ったまま周が立ち上がり、必然的に俺もということになる。 「はいはい、カズくんは置いていくように～彼も正規の同好会員ですから、参加する権利があります」 　小橋の声が引きとめ、 「どうすんだ？」 　と、間野が今にも噛み付きそうな表情で俺たちを交互に見た。 「の、残る」 　正直なところ、まだキャラクターシートも出来てないし、この三人と遊ぶ気分でもなかったけど、このまま周と何処かに行くよりはマシな気がした。周の目には、今は怒りしかない。