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第37話 もうこんなのヤダかんな

 携は体をこちらに向けたまま、ゆっくりと目を伏せて息を吐いた。長い睫毛が震えている。元々白い肌が、紙のように白くなり、そっと囁くように言葉を紡いだ。 「──ごめん」 「なんでだよっ」  俺は持っていた着替えを空いているベッドに放り投げると、椅子の手前まで歩み寄った。 「口止め、されてて」  ようやく携が顔を上げて視線を合わせてきた。 「……だからって。俺、そんなに信用ねえかな? 教えてくれたのって会長だけど、俺は携の口から聞きたかったよ」 「大野さんが……?」  携は一瞬目を見開いて唇を噛んだ。  確かに生徒会長は、同好会も一緒だし同好会会長でもあるからダブルの意味で『会長』って呼んでる。けど、そんな程度の付き合いしかなくてもある程度信頼してくれたからこそ、教えてくれたんだと思う。俺なら、他のヤツには軽々しく言ったりしないって。  それなのに、当の携に信用されていないなんて。  こんなのって……。 「──ふ、っ……」  涙が、抑えようもなく次から次へと頬を伝っていく。 「和明っ」  がたんと携が立ち上がる。  どうにかしなくちゃと思っても、どうしたらいいのか判らない。宙を彷徨う手が、携の気持ちを代弁していた。  俺だってどうすればいいのかなんて判らない。  後から後からしょっぱい水が湧き出てきて、鼻水も出てきて、首に巻いたままだったタオルで乱暴に拭いながら立ち尽くしていた。  どれだけ時間が経ったのか分からないけど、俺たちにとっては長い長い時間が過ぎた。  黙ったままだった携が椅子を机の下に押し込んで、そっと正面から抱き締められた。 「ごめん。生真面目に言いつけを守りすぎたな。そんなに傷付けるとは思わなかったんだ……」 「んとに……真面目すぎんだよ、携は。もうこんなのヤダかんな」  そっとその背中に腕を回し、ぎゅうっと力を込める。体温の低い携の体は、頭に血が上っていた俺の体から熱を奪って行ってくれる。  携の行動が誤解を受けやすいことなんて分かっていた筈なのに、カッとなった自分が急に恥ずかしくなってきた。  物静かで、言葉が少なくて。それでもバタバタと落ち着きのない俺の傍に居てくれた。  それだけで十分じゃないかって、思うときもあるのに。  ホントはもっと、いっぱいしゃべって何考えてるのか教えて欲しい。  毎日じゃなくていいから、二人きりの時はゆっくり頭を撫でて欲しい。  あんまりしゃべらなくていいから、傍に居て欲しい。 「和明、ちょっと苦しいよ」  無意識に力を込めすぎていたんだろう、携の息が乱れていた。 「あ、ご、ごめんなっ」  腕を緩めて体を少し離す。  あ、携の服まで濡れちゃった。やべ。 「これから風呂?」  着替えるならまあいいかと思ったら、ふるふると首を振られた。 「いい、寝る前か朝にシャワー浴びる。今は和明と一緒に居る」  ぽふんといつものように手の平が頭に載って、二人で目を合わせて笑みを浮かべた。

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