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第61話 たまには実家もいいもんだ

 月曜日の晩に帰省する人も多かったみたいで、少し嫌そうな浩司先輩の後ろに乗ってウォルター先輩も帰って行った。  携が忙しいのに書記はいいんだろうか……? 執行部のこと解んないけどさ。  俺と智洋は朝の便のバスに一緒に乗って、電車で帰省した。降りる駅は違うけど家同士は十キロも離れていないので、荷物を置いてから改めて午後に待ち合わせの約束をしてから別れる。  大分暑くなってきたし、半袖もう少し寮に持って帰らなくちゃだよなあ。  ぽてぽてとボストンバッグを肩から提げて歩いていると、チリリンッと自転車のベルを鳴らされた。  なんだよー。ちゃんと端っこ寄ってるぞ? つうか、チャリは左側通行だろうが。後ろから鳴らすな。 「かずくんおかえり~」  恨めしげに振り返ると、姉の裕子がサドルから降りたところだった。 「ただいま」  ママチャリの前籠にはスーパーのレジ袋が中身が飛び出しそうな程にみっしりと詰め込まれている。ボストンを外して後ろにドサッと載せると、姉貴は黙って自転車を押しながら歩き始めた。  ほっそりした体に色白の肌。背中の中ほどまで伸ばしている髪は細くしなやかなストレートで少し色素が薄い。目の色も少し薄いんだよな。おっとりという言葉がぴったりはまる優しそうな顔立ちの美人。  あくまで外見は。 「まさか迎えに来てくれた」「わけないじゃない、買い物からの帰りよ見りゃ判るでしょ」  ソウデスネ。  それでも後ろに荷物を置かせてくれただけまだマシだろうと思う。  多分ここが往来だからだ。ご近所の目があるから文句言わないんだ。  家までの数百メートル、姉貴からの問いに答えるように学校や寮での生活のことを話した。姉貴は携のことを凄く気に入っているので必然的に携の話ばかりになる。  トップシークレットとはいえ部外者ならいいかと、一応口止めしてから生徒会副会長になっていることを教えると「やっぱり携くんは凄いのねえ」なんてしきりと感心していた。  だよなー。携が親友で凄く誇らしいと思う。我がことのように自慢げになっていた俺に呆れてはいたけれど、和やかな雰囲気で家まで歩き続けた。  取り敢えずと二階に上がり、半袖の服をいくつかクローゼットから引っ張り出した。  寮から出る時はそうでもなかったけど、街中だからなのかこっちの駅に着いた途端にむわっと暑く感じた。出掛ける前に着替えようと、薄手の半袖パーカーとカーゴパンツをセットしておく。万が一食事中に汚してもアレなんで、すぐには着替えない。  キッチンで食事の用意をしている母親にも挨拶してから冷蔵庫の中身を探り、俺のために買っておいてくれたらしい炭酸入りのジュースをグラスに注いでからリビングに移動した。  俺以外に炭酸誰も飲まないんだよな。  テレビでも観ようかとリモコンを探していて、テーブルの上に雑誌のようなものがあることに気付く。 「ふうん、【feel】?」  姉貴のかなあと思いながらも、寮生活でテレビを見る習慣がなくなってきているので、背表紙五ミリくらいのフルカラーの冊子を手に取った。  何処かのビーチで遠くの方に女性が立っている表紙だったけど、ぺらぺらと捲ってみると通信販売のカタログのようだ。  全て自然素材の優しい風合いの衣料で、姉貴の好みだなあと苦笑する。男物もあるかなと捲り続けていて、はたと手が止まる。 「え!? なんで?」  ページと目を見開いて紙面を凝視していると、いつの間にか傍に来ていた姉貴が頭をぶつける勢いで隣から覗き込んできた。 「ああ、そのモデル、軸谷くんみたいだねえ」  夏物のカタログなのか、波打ち際で素肌に白いシャツを羽織りハーフパンツ姿の先輩が、ゆったりと微笑みながら遠くを眺めていた。隣のページには、南国風の室内でカウチに寝転んでいる先輩。捲ると、女性のモデルさんと寄り添っていたりと色んなポーズの先輩。みたいな、じゃなくて間違いなく本物! 「ね、ね-ちゃん、一生のお願い!」「いやよ」  即行で否定されたけどまだ願い事言ってねえよ!

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