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第60話 恐怖の反省室

「周くん、来るといいな」  壁のラックからキューを手に取り、ウォルター先輩に渡される。 「それだよね、使ってたやつ」 「あ、ありがとうございますっ」  受け取ったものの、グリップの色くらいしか憶えていなくて自分じゃ良く判らない。  んー……何か違うのか? 俺の記憶力悪いだけ?  ためつすがめつ眺めてみたけど、さっぱり判らない。まあいいや。  キューばかり見つめていると、「そうそう」とウォルター先輩がついでのように口にする。 「例の二人だけど、連休明けまで反省室と奉仕作業に決定したから」 「? 反省室? そんなのありましたっけ」  奉仕作業っていうのは何となく判る。工業系の学校とか、罰掃除っていうのがあるって話。それと似たようなもんなんだろうな。  けど反省室ってなんだ? 「日中は街に下りて町中を清掃しながら歩くんだってさー。勿論監督付きだからサボれないよ? で、この寮実は地下室があってねぇ……」  ふふふ、と何だか楽しそうに笑っているけど暗黒オーラ出てます。浩司先輩と辰も口を閉じてこっちを凝視してますよ。 「勿論窓とかなし。狭い個室に質素な晩御飯、勉強道具以外の持ち込み禁止。強制的に消灯されるから、その後は真の暗闇に一人きり──」  や、なんか想像するだけで鳥肌立ってきた……!  楽しそうなのは金髪王子だけで、二人も微妙な顔つきになってるよ。  絶対お世話になりたくない場所ですね!  十三時になっても周が現れなくてしょんぼりしていると、浩司先輩がやってきてスピンの掛け方を教えてくれた。真っ直ぐ撞くのだってかなり難しいのに、目の前で見せてもらってもなかなか真似できるもんじゃないよね。  なるべく意識を集中して練習を続けていると、半を回ってからのっそりと周がやって来た。 「遅くなってすんません」  ぺこりと頭を下げたその顔は、一晩経ってみると余計に青痣が目立っているように見える。  痛そうだな……。  そんな周を見てなんだか頷きながら微笑んでいる三人。なんだろう? 「男前になってるじゃん」  浩司先輩がポンと周の肩を叩くとちょっと痛そうに唇を歪めていたけど、俺が名前を呼ぶと少し笑ってくれた。  ほっと息をつく。  良かった……昨日よりは元の周に戻ってくれてるみたいで。  そうして落ち着いてみてようやく思い至る。  そっか、ご飯食べるの時間かかるから、また遅くなったのかも。  俺は十二時前くらいに入って殆ど掻き込むみたいに昼飯食ったけど、その後入って昨日の調子でゆっくり食べてたらこんな時間になっちゃったのかも。  てことは~……。  今はウォルター先輩と談笑している辰の方をちらりと見る。気付いたのか微笑して頷かれて、「良かったな」って声に出さずに言われたみたいでちょっと恥ずかしくなった。  昨日あれだけ傍についてたんだもん。辰が判らないはずはない。  暇だから、っていうだけじゃなくて、俺の相手をしてくれるためにわざわざ部屋の前で待ってくれてたんじゃないかと思う。  心の中がふわっと暖かくなった気がして、自分でも頬が緩んでるなと自覚しながらまた台に向き直った。    ──なんだ、皆いい人だよね……。  前回、周と二人でマイペースにナインボールをやったけど、今回は浩司先輩のアドバイス付きでゲームをやってみた。まだ二人ともあんまり思った場所へは撞けないけど、随分ゲームらしくなってきた感じがする。  辰とウォルター先輩も隣の台でゲームをしてたけど、辰もなかなか上手だった。【KILLER】だったのはびっくりしたけど、外見からして色々遊んでいそうだし何だか納得。  ゲームをしている間に周も少しずつ話し掛けてくれるようになったし、こうやって遊ぶのってやっぱりいいよなと思ってしまった。  次の日登校してみると、クラスメイトたちは口々に「怪我はもういいのか?」と安否を気遣う言葉をくれた。  どうやら「資料室で頭をぶつけて打ち所が悪かったので精密検査をした」という風に伝わっているらしい。担任は事情を知っていて、嘘にならない程度に情報公開してくれたらしい。  当たり障りのない返答をしながら、ほっとしていた。  嘘の話を作るのは苦手なんだよな~俺……。すぐにどっかでボロが出るタイプ。  翌日から連休ということもあり、学校全体がなんとなくはしゃいでいるような浮ついた空気の中、平穏な一日が過ぎていった。  放課後すぐに帰省する生徒も多いらしく、送迎バスは今日明日は大忙しだろう。  寮のご飯が気に入っている俺と智洋は、明日の朝食後の便にすることに決めていたので、休み中にのんびり出来るようにと自室で課題に取り組んだ。  流石に全部は無理だけど、後は帰ってきてからでも間に合うだろうという分量だけ残して就寝する。  楽しみだなあ、智洋と遊ぶの。

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