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第59話 辰史の正体

 翌朝、日曜日だけど朝食を食いっぱぐれない程度にゆっくり起きてシャワーを浴びた。いくら体を拭いてもらったとはいえ、やっぱりシャンプーせずに先輩たちと会うのは気が引ける。  荷物の出し入れで智洋も起きたので、いつも通り三人で食事してから別行動。  遊戯室以外は行くなと智洋に念を押されて、部屋で予習したりして午前中を過ごす。その智洋はといえばテニス仲間とコートに行ったようだ。  携も昨日俺に付きっきりだった分、執行部の方へと用事を済ませに行った。  俺はまた早目に昼食を済ませてから遊戯室に行ってみることにした。先輩たち、行ってるかもしれないし。  一旦部屋に帰って歯磨きを済ませてから廊下に出たところで、難波と出くわした。 「あ、霧川」  いそいそと近付いてくる難波。フェイクだろうけど、スリムなレザーパンツを履いてTシャツと黒いシャツを重ね着してる。何着てもかっこ良さそうだなあなんて感心して眺めてしまった。 「あのさ、ビリヤードしてるんだってな。俺も一緒していい?」  猫の目みたいにくりくりした瞳はちょっと色素が薄い。 「んー? やってるというか、教えてもらってる段階なんでまだちゃんとゲーム出来ないんだけど」  というか、一緒にやるなら先輩たちに許可を取らないといけないような気がする。  大丈夫―と難波はにこやかに頷いた。 「他の台で遊んどくから、もし周が来なかったら相手してやるよ」 「そんなんでいいの?」 「いいよ、どうせ暇だし」  誰とでもそれなりに仲良くしているように見える難波は、特定の誰かと仲が良いというわけでもないらしい。いつもは週末に帰省してしまうんだけど、今回は連休に帰るからと初めて寮に残ってみたんだって。  なるほど、クラスメイトでも学校以外じゃあんまり会わない奴がいるのも解るよなあ。 「難波ってすげえモテそうだけど、彼女とかは?」  遊戯室に向かいながらの雑談。 「あー、いるというかいたというか。多分このまま自然消滅になると思うよ。向こうは毎日とか会いたがるからさ、電話しても泣くばっかして嫌になってきた」  溜息をつきながら難波は両手をポケットに入れる。廊下に公衆電話があちこち設置してあるので、連絡には困らない。  でもポケベルは持ち込み禁止だしな~。 「同じ高校に行きたかったんじゃない?」 「まあねえ。でも何処に行っててもその内駄目になってたでしょ、そんな程度じゃな。俺、すぐ醒めるんだよなー束縛されたりしたら」 「ふうん……」  そんなもんなのかな。俺には、彼女いたことないから解んないけどさ。  寂しそうでも悲しそうでもなくて、それが彼女じゃなくて友人だったとしても、ちょっとは何かショックじゃないのかなって思ったりした。  でもそうか……。  携がもしも一緒に入学してなかったら、俺だったら毎日のように電話してたかもしれない。週末にも帰省してたかもしれない。  けど、実際他にも遊び仲間は結構いたけど、遊ぶために家に帰ろうとまでは思わないもんな。それだって薄情なような気がするし、難波のこと言えないな。  携が一緒じゃなかったら、か──。  俺、ホントにどうしてたんだろう……。 「つっても、向こうから告られて付き合ってるだけだからさ、いっつも。俺から好きになったら、また違うんだろうけどな」  つい考え込んでしまった俺に気遣ったのか、難波が微笑した。  うーん、モテる人は言うことが違うね! 「俺なんか『好き』って言われたらそれだけで好きになっちゃいそうだけどなあ」 「えー、そりゃあねえわ~和明さん……あ、今更だけど名前で呼んでいい? 俺のこともタツでいいし」 「おう、カズでいいよ?」  ゆっくり歩いたけど遊戯室に着いてしまった。  思いの外楽しかったな、タツと喋るの。また友達増えたよ! やっぱり俺よか背ぇ高いけどねっ。  ドアを開けて揃って入ると、案の定先輩たちは一番奥の台でゲームをやっているようだった。そして相変わらず他に人がいない。平日の夜ならテレビ観てるやつとか結構多いんだけどな。  撞いている最中に気を散らせてもいけないからとなるべく静かに寄って行くと、先にウォルター先輩が振り向いた。 「お、来たね~カズくんと何故かタツくんも」  にんまり笑って俺と辰見比べてるんだけど、知り合いだったんだ?  俺も先輩と辰をきょとんと見て首を傾げながらも「こんにちは」と挨拶した。 「辰~? 何で帰ってねえんだ」  浩司先輩も手を止めて、俺に「よ」と笑顔を向けてから辰を訝しげに見遣る。 「飛び石連休だからしょうがないっすよー。行ったり来たり面倒だし。浩司さんこそ、少しはあっちで走りましょうよ」  唇を尖らせて逆にブーイングの声を上げている辰。  ん? 走る? バイクの話かな。 「俺はこっちで転がしてるからいいんだよ。もともと一人で攻める方が好きだし」 「うー。浩司さんの走り見たいな~。俺も連休明け、バイク持って来ようかな」 「好きにすりゃいいじゃん。けど、週末ごとに乗って帰るのも大変だと思うけどな」  それっぽい話をしている二人を眺めていると、いつの間にか金髪王子が隣に立っていた。 「タツくんは【KILLER】のメンバーだよ。尤も、浩司が顔出していた頃にはまだいなかったから、あんまり接点ないみたいだけどね」 「あー、先輩たちが中三の頃とかですもんね。流石に無理だろうなあ」 「流石カズくん、良く知ってるなあ」  半ば呆れるように微笑を浮かべる王子。  はい、すみません! 必死こいて情報収集しましたから俺! 犯罪者一歩手前です多分。  勿論そんなことは口に出せないけど。  軽口の応酬が出来る程度には浩司先輩も慣れている様子で、やっぱり辰は悪いやつじゃなさそうだった。  それより気になるのは──

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