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第75話 猫とかネコ科っぽいのが好みだとか

 でも猫に罪はないわけで。 「セイジ」  目線をやって呼び掛けると、耳がパッと俺の方を向いて首を伸ばした。またこちょこちょと頬を掻いてやるとうっとり目を瞑ってしまう。  あー可愛い! ハンサムだしな!  美しいラインを描いて吊り上がっている瞳を見つめていて、そう言えば俺が「かっこいいな」と感じる人って大抵こういう猫科の目だなあと思い至った。  浩司先輩にしろ智洋にしろ辰にしろ。  ウォルター先輩もかっこ良いけど、あの人の場合は綺麗なのが先にたって同じ人間じゃないような気もしてくる。ユニコーンみたいな、そんな幻想的な生き物。  んで、携は……なんだろうな。携は上がり目じゃないけど、ウォルター先輩みたいな超越した存在じゃなくて、でもやっぱり綺麗だしかっこいいなと思う。はぐれ狼? は、ちょっと違うか。でも一度懐に入れたら徹底的に甘やかしてくれる、そんな犬科の性質だと思う。  思い出したら携の手が懐かしくなってきた。  俺の指先で気持ち良くなってくれているセイジみたいに、俺も携の傍で寛いでそれを与えてくれる携も今の俺みたいに癒されたり心地良くなったり、してくれてるのかな。  細めた目をたまに薄く開いては顎をこすりつけて来るセイジを撫で続けながら、そうだといいなと願っていた。  トン、と背中に手の平が当てられて、ずっと俯き加減だった顔を上げて振り返った。 「カズ、ほんっとーに猫好きなんだな。蕩けそうな顔してるし」  そう言う辰だって、女子が百人いても九十九人はうっとり見惚れるだろう幸せそうな微笑み浮かべてるんだけど、一体何があった?  いつの間にやら智洋の姿が消えて、ついでに二人のグラスも下げられている。コルクのコースターを湿らせまくっている自分のを手に取ると、一息に飲み干した。 「ヒロなら漫画取りに上がってるぜ? 声掛けたのに生返事してたからわかってなかったんだろ」 「うわ、まじで? ごめんな、自分の世界入ってたかも」  一旦セイジから手を離して座り直し、両手を合わせて謝った。  猫がというより哺乳類全般好きなんだけど、その中でも確かに一番好きかもしれない。今日、改めて自覚してしまった。 「いいけどさ、その顔見てるこっちも癒される」  ふっと目を細める仕草がやっぱり猫めいてて、辰がそういうなら携もそうかなと嬉しくなった。  またくしゃくしゃと頭を撫でられて、俺も目を細めて笑ってしまう。  そうだ! 智洋いない時に浩司先輩のこと訊いてみよう。 「辰、前から気になってたんだけどさ」 「なに?」  僅かに首を傾げて、指先で耳の上を梳くように整えられる。 「なんで赤組の応援団入んなかったの? そしたらもっと浩司先輩の傍に居られるのに」  そんでもって先輩について語り合えたのに。 「えー、だってそしたら浩司さんに見惚れられねえじゃん」  当たり前のように言われて、なるほどねと吐息する。 「確かに、少し離れて眺めてるのが一番いいかもだけど~……それって辰は元々知り合いで他に接点あるからだよな。俺なんか何かしら理由作ってからじゃねえと近寄れなかったし」  羨ましいけど、だからといって俺はバイクに乗りたいわけじゃないし、学校内でしか接点が作れない。  まてよ、接点といえば。 「あー……実は先輩たちだけが映ってる演舞のビデオ持ってんだけど」 「マジで!」  両手でガシッと肩を掴まれた。目が輝いてるね! 気持ちはよおく解るよ! 「あと、カタログは? 辰も持ってる?」 「カタログって?」  あ、知らないらしい。ちょっと優越感。 「通信販売の、メンズモデルやってるやつ」 「なにそれ初耳なんだけどーっ! その辺詳しく! いやまあとにかくそれ見せてっ。ビデオもダビングする!」  わ、解ったから~……そんなに揺さぶらないでー……!  ガクガクと上半身を揺さぶられる俺の傍ではセイジが少し離れて耳を寝かせて見守り、戻ってきた智洋に呆れたように「何やってんのお前ら」と吐息された。

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