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第76話 先輩素敵すぎるの一言です!
男三人が静まり返って読書している姿ってちょっと不気味な気もする。いや、読書つってもコミックスですけどね!
不在の間にお姉さんが新刊を買っておいてくれたらしく、智洋はそれに夢中。
辰も、そのシリーズを一巻から読み始めて好みに合っていたのか、たまにくすりと笑いながら物語に入り込んでいる。
俺はといえば、同じ作者の読み切りのものを読みながら、膝の上に乗ってきたセイジの相手をしたり、たまに顔を上げてはそんな二人を眺めて美形って癒されるとか再確認したりして過ごしていた。
夕方と呼ぶにはまだ明るい時間に、お姉さんは帰ってきた。パタパタと忙しない足音が近付いて来て、ピョンと俺の膝から飛び降りたセイジがいそいそと廊下との境目まで迎えに出て行く。ドアは開放していて廊下を通る時に伴美さんがしゃがんで「ただいまー!」とセイジに顔を押し付けていた。
「こんにちは~」「お邪魔してます」
寮で前にも会っているので緊張しなくてすんだ。挨拶すると立ち上がりながら満開の笑顔で「いらっしゃーい」と言われ、手に持っていた袋を近くに放り投げてからキッチンの方へと引っ込んだ。
恐らく手洗いうがいをしているのであろう生活音の後、グラスを持った伴美さんが戻って来た。
あれれ? ここに来るの?
智洋は一瞬だけ顔を上げてそんな伴美さんを一瞥しただけで、また漫画に目を落とす。
辰はやっぱり気になるみたいで、視線から推察するに視界に伴美さんを入れつつ斜め読みしているような感じになった。
セイジはといえば、もう挨拶は済んだとばかりにまた俺の膝に戻ってくれた。
なんて可愛いやつなんだお前は! 寮に連れて帰りてえくらいだよ。どんなにやなことあっても、セイジともふもふしたら全快できそうな気すらするもんな。
伴美さんは先刻放り出した大き目の幌布バッグから雑誌を取り出して、テーブルの傍の床にぺたんと座ってからぺらぺらと捲り始めた。
「あ、それ」
見知ったその冊子に、思わず声が出てしまう。
「ん? カズくんも知ってるの?」
嬉しそうに問うてくる伴美さんに、こくこくと頷いた。
「そういえば伴美さんも浩司先輩大好きですもんね」
納得の俺の隣では、辰が反応して背筋を伸ばして伴美さんを見つめ直した。
そんな辰を肘でうりうりと突付いてみる。
「辰、あれが例のカタログ。うちの姉貴もあのブランドが好きみたいで、前から買ってたらしくて、けど俺が中見たの昨日が初めてでさあ。マジびっくりしたよ~」
「あれが……!」
ごくりと喉を鳴らす美形に見つめられて、流石の伴美さんもちょっと引くかと思えば、きらりんと大きな瞳を輝かせてパッと先輩が載っているページを大きく広げて辰の前に掲げて見せた。
「見て見てーっ! カッコイイよね、浩司くんっ」
一度見せてもらったもののその後さっさと姉貴が自室に持ち帰ってしまいじっくり見ることが出来なかった俺も、まじまじと見入る。辰も薄く口を開いて、食い入るように見つめていた。
伴美さんは「どうぞ」とそのまま辰の膝の上に冊子を置くと、ハタと気付いたように辰の顔を見上げた。俺たちはソファに腰掛けているから、どうしても視線が上下になってしまう。
「きみははじめましてだったね、今更だけど、姉の伴美です~。伴うに美しいって書くんだけど、トモちゃんとは呼ばないでね? 姉弟でトモトモだからいやんなっちゃうんだー」
いやいやいや、連れのお姉さんを渾名呼びしませんから!
「あー、こちらこそすみません。難波辰史っす。干支の辰に歴史の史で、浩司さんとはチームメイトというか」
辰はぺこりと頭を下げて、不思議そうに伴美さんを見遣っている。
「もしかして星野原の本校通ってるんすか?」
「ううん、だったら良かったけど、玲光女学院なんだ~。浩司くんとは何故か色んなところで縁というか遭遇しちゃってね、二年の一学期とか結構遊んでもらってたんだ。グループだと会ってはくれるけど、一対一ではダメみたいでね」
口調は明るいけれど、最後の辺りはちょっと寂しそうな色が混じっていた。
昨日知り合ったあの翔子さんでも駄目なんだから、一般的な女子高生タイプの伴美さんは尚更駄目なんだろう。
浩司先輩の「付き合ってもいい」基準がどこら辺なのかは判んねえけどさ……。最低限、二人で歩いている時に守らなくてもいい存在、てのがあるのかもしれないし。
俺だったら、伴美さんが智洋のお姉さんじゃなくて「付き合おう」なんて言われたら、即OKしちゃうだろうなあ、なんて。しょうもないことを考えてしまった。絶対有りえないっての。
「私も【feel】見つけたのって最近だから、その前の号しか持ってないんだ。といっても年間二冊しか発行されていないんだけどね。前のも見るよね? 秋冬号」
「「見ますっ!!」」
俺と辰の二重唱に朗らかに笑いながら、伴美さんは自室に取りに行ってくれた。
うう……いいなあ。うちの姉貴は前から買ってても、期限が過ぎたらあっさり資源ゴミに出しちゃってたみたいで、最新のしか残ってないんだもんな。
「お前らってホント……」
言葉を濁しながら吐息する智洋。
ああ、はい。言いたいことはなんとなく解りますが。
自重はしねえ!
戻って来た伴美さんの手から秋冬カタログを受け取るなり、二人でじっくりとっくりこの目に焼き付けましたよー!
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