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第90話 どんだけ兼部してるんですか!
ぽかんとしているうちに膝下と背中に手が当てられて、一旦しゃがんだ会長がすっと立ち上がった。荷物ごと軽がる抱き上げられた俺は、一瞬遅れて真っ赤になる。
流石にっ! いくら俺が会長より背が低いっつっても細腕で抱き上げられるほど軽くはないわけで!
いやでももうすでに抱っこされちゃってますけどー!!
「か、会長っ! 腰とか腕とか辛いだろうし早く下ろしてくださいー!」
叩いたりするわけにもいかず、ブレザーの襟を持って主張する。
「軽いもんだぞ。本当にちゃんと食べているのか?」
「めちゃめちゃ食ってますっ」
「まあ僕は山岳部にも入っているから、その時の装備に比べればカズくらいなんともないがな」
さ・ん・が・く・ぶ……!
そりゃ確かに荷物重いしずっと坂道歩くわけだし体力ありますよね! っていうか!
「まだ他にも兼部してたんですかっ」
そっちの方に驚いたわ!
「ああ、山登りは休日限定だから支障ない」
すました顔で、何故か歩き始める会長。
勉強以外興味なさそうな顔しててゲーム好きとかアウトドア好きとか、全然読めないですこの人……。
「おろすぞ」
声を掛けられてようやく地面に足が着いたかと思ったら、もうそこは既に靴箱の並んでいるところで。今まで上しか見ていなかったから気付かなかったけど、ふと見回せば帰寮した生徒たちの好奇の目に晒されていて。
会長ぉーっ! これはちょっとどころか恥ずかしすぎるんですけどもっ!
「またセクハラされてんのカズくん~」
今しがた帰ってきたらしいウォルター先輩が、そんな中からすっと近付いてきた。
「失礼な。ちょっとどれくらいの重さか量ってみただけだ」
生真面目に答える会長の答えに唖然としてしまう俺なんですが。
「えー? そんな量り方しないよ普通。いちゃついてただけにしか見えないし」
けたけた笑いながらウォルター先輩に肩を叩かれ、羞恥で死ねそうです……。
でもこうやって先輩が笑い飛ばしてくれているお陰で、他の生徒たちも微笑ましげに見守ってくれているような雰囲気。
「いちゃつくといえばだな、お前がちゃんと仕事をしないからシャールが手伝いに来る頻度が増しているぞ。どうにかしろ」
一転して黒いオーラを向ける会長に、ウォルター先輩も笑顔を引っ込めた。
「あー……そう?」
「カズに余計な心労を掛けるな」
会長の手がぽんぽんと俺の頭を優しく叩くのを見て、ウォルター先輩はすぐに察したようだった。
「──なるほど。ごめんね、カズくん」
「え、あの……俺は別に」
仕事しないのは良くないことだけど、それを俺に謝られても困るっていうかお門違いっていうか!
わけが解らなくて、おろおろと二人を見比べた。
「まあ、来週はきちんと執行部の仕事をしろよ」
「へいへい。あー、薮蛇だった……」
「お前は変に日本語に精通しているよな……」
「日々の勉強の賜物ですよー」
軽口を叩き合う先輩たちと一緒に靴を履き替え、ようやく俺は解放されて自分の部屋に帰ることが出来た。
あーあ、心臓に悪いよ、先輩たちの言動は。
部屋で待っていてくれた智洋と一緒に食堂へ向かった。中に居た智洋は、さっきのエントランス付近での騒動は知らないようだ。良かった……恥の上塗りしないで済んだ。
頼むからこのまま皆そのことについてはスルーしておいて欲しいと思いながら席に着いて食べ始める。今日も携は遅くなるんだろうか。
さっきの様子だと少し時間が掛かりそうだったな……二人でやれば食事に間に合うとは言ってたけど、ぎりぎり間に合うっていう意味かもしれねえし、予想に反して時間掛かってんのかもだし。それよりもあのシャールっていう人と仲良くしてて、もう俺らとの暗黙の了解みたいな食事時間はどうでもいいのかもしんないし。
どよんとなりながら地鶏の親子丼を掻き込む。美味しいのに雑な食べ方でごめん! 鶏にも作った人にも申し訳ない。
付け合せの酢の物や味噌汁も全部食べ終わった頃、ようやく携がやって来た。
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