135 / 145
第135話 食われたい
もう一度塞がれて、今度はすぐに侵入して来た舌に絡め取られて、息も出来ないくらいに貪り合った。
「んふっ……は、たず、さぁ」
煌々と室内を照らす蛍光灯の白い光の下で、立ったままハーフパンツごと下着を下ろされて、足元にわだかまるそれを蹴り飛ばしながら携のスウェットに指を掛けて、同じように下げる。俺のほどストンとは落ちないから、携が足踏みするようにして落とす感触がした。
太腿や臀部を撫でる手の平が、いつもより性急で力強い。切羽詰まっているのは自分だけじゃないって伝わってきて嬉しくて、触れられている何処もかしこも熱を帯びては背筋に痺れるような何かを伝えてくる。
素肌同士が密着している下半身を擦り合わせながらのキスは、どうしようもなく腰の奥に熱を溜め込んで行く。
もっと、もっと。
焦るような、もどかしいような、変な感じ。
足りないよ、携。全然足りない。
背中に回した両手で、あちこち撫でながらシャツを捲り上げて行く。色は白いけど、引き締まった背筋。手の平で、指先で、脊髄の節のひとつひとつを数え上げるように丹念に触れながら、首筋へと辿り着く。そのまま首筋からくるりと後頭部を撫でると自然とシャツが脱げるから、携も自分で動かして袖を抜いた。
パサッと足元に落ちる乾いた音。
「へへ、先に脱がせちゃった」
舌先を出してちょっと優越感に浸って笑みを向けると、かぷりとそれに噛み付かれる。至近距離で、わざとらしく寄せられている眉根。
あむあむと甘噛みした後、ぺろりと顎から頬へと舐め上げられた。
「うひゃっ」
反射で目を瞑ってしまうと、そのままぺろぺろと顔中舐められて唾液でべとべとになる。
い、犬なの? わんこプレイとか?
そんなことをされても全然嫌な気持ちになんてならなくて、その舌が喉へと下りて急所である喉仏を大きく噛まれながらまた舐められて、吐息がどんどん温度を上げて体から力が抜けて行く。
肩に縋りつくように抱きついたままベッドに辿り着く頃には、股間のもの以外はふにゃふにゃのくたくたになってしまっていた。いつの間にか脱がされていたシャツがポイと放り投げられた。
あー……ドキュメンタリーで見たアレみてえ。
狐とか、肉食獣が小さい獲物を獲ったときに、喉笛を噛み砕いて地面に下ろすシーンが浮かぶ。あんな感じでくたっと横たわっている自分を見下ろしている携は、普段は冷静沈着な優等生だけど、何かを吹っ切ったかのような肉食獣の瞳になっている。
「食われたい……」
狼みたいな携も、凄く好き。
そう、感じた通りに声に出していた。
「言われなくても」
屈み込んで肩に噛み付かれる。歯型が付くほどじゃないけど、かぷりと大きく頬張り唾液を塗りつけながら舌全体で愛撫されて、呼吸が乱れる。
顔は勿論だけど……こんな風にされても嫌悪感も何もなくて。これがあの時の黒凌のやつらだったらなんて考えるだけで怖気が走る。
下手に愛撫っぽいことなんてされなくて良かった。解されはしたけど、必要最低限、傷が付かないようにとしただけのあの行為だけで良かった。〈躾〉と称するなら、その先のことも考えて体が傷付くような乱暴なやり方はしないにしても、それでも余計な手順は省いて挿入で自分たちが気持ち良くなる事を大前提に据えていた。
だから──
キスに対しても、触れられることに対しても、特にトラウマらしきものはない。
腕を取られて、脇の下を舐められる。
「あぁっ!」
くすぐられればそれなりに感じる方なんだけど、それとは違うこそばゆさに体が波打った。
「ん……やっ、はぁ、あ、あっ」
何度も舌を這わされて背中ごと腰が跳ねる。その時に雫が飛び散り、その行為でもう感じて滴らせているんだと気付いて居た堪れなくなった。
それなりに喘がせて満足したのか、またカプカプ噛みながら筋肉を辿って腕を伝い、手首をそっと持ち直されてそれだけでまたピクンと体が跳ねる。
マッサージされると気持ちいいし、周にされて指が気持ち良くなるのも体験していたけれど、こんな部分もって知った。やんわり握られたまま指の腹でさすり、そこに口が近付いて行く。
視線を受けて、横目でこっちを窺いながらわざとらしくゆっくりと手の平を指先で軽く擦られる。ピクンと手が反応して、指の股に伸ばした舌を這わされて、視覚からの刺激と相まってふるふると体が震えた。
「やぁ……っ」
空いた方の手が、俺の口元に差し出されて、迷わず指を口に含んだ。
色気たっぷりに流し目を寄越しながら俺の手を愛撫する携を見上げながら、指で口の中を犯される。倒錯的なこの体勢を脳内に描くだけで、ずくんと腰が疼いた。
閉じられない口の端から、唾液が顎と頬を伝い落ちる。肌の上で携の唾液と混じっているんだと思うと、頭の中が痺れるように幸せだった。
ともだちにシェアしよう!