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第134話 欲張りでわがままな俺
それからの一週間は、ただただ慌しく過ぎていった。
廊下などでたまに他のクラスのやつに変な視線を向けられたりもしたけど、日を追うごとにそんなこともなくなり、平穏な日常が過ぎて行く。
毎日の処置の時にどうしても逃げられないあの痒みは、土曜日になり急に──拍子抜けするくらいに呆気なく去って行った。明け方、一旦腸内清掃をしようと漢方を飲み数時間後に緩やかに訪れた便意にトイレに篭るも、恐れていたあの感覚がやって来ない。
もしかしたら間隔がずれているだけかもしれないからと、一応いつでも処置できるように携の部屋で勉強していたけれど大丈夫で。
夜になって、夕飯も済ませて、それからようやく携に安堵の笑みが浮かんでギュッと抱き締められた。
「もう、大丈夫みたいだな」
「だね」
いつも時間を気にして、もしもが起きないようにと俺の傍を離れるのは処置後の時間に限っていた携を、ようやく解放できる。
そんな気持ちの奥で、ほんのちょっぴりだけ、寂しさが顔を覗かせていた。
もう、携を俺の傍に引き止めておく理由が無くなった。勉強は一緒にしていたけど、執行部の仕事やSSCの講習はなおざりにして一緒に居てくれたこの一週間、まるで中学時代に戻ったみたいに幸せだった。
だけどもう、留めて置けない。行ってしまう──
いつから俺は、こんなにも欲張りで我がままになっちゃったんだろう。
医務室で、もう携は俺一人の傍に居ちゃ駄目なんだって、自分でそう思ったくせに。一緒に居れば居るほど、居なくなるのが嫌で、その手を離したくなくて、もっと長くと願ってしまう。
ホントばかみたい。毎日会えるのに。これからだって、少なくとも卒業までは同じ場所に居られるのに。
それでも──
緩やかに、俺の後ろ頭を撫でていた手が止まり、肩を持たれて体を離された。
「和明……?」
白い指先が頬に触れて、自分が泣いていることに初めて気付いた。その瞳に映る自分自身の顔が、間抜けだなと感じる。
ようやく薬が消えて、自分を失くしてしまいたくなるようなあの酷い痒みから解放されるのに。嬉しさからじゃなくて、寂しさで涙が溢れるなんて。
信じていればいい。あんなに力強く、何度も言ってくれたじゃないか。
好きだって、愛してるって。
だから、今まで少し休んでしまった分忙しくて会えない日が出来たとしても、信じて待っていればいいのに。今は、ただそれだけのことが出来そうにないくらいに心がふにゃふにゃに弱ってしまってる。
揺れる瞳の中の自分を見つめたまま、大きく息を吸った。
「携……」
ん? と首を傾げて微笑むその手を、それぞれの手の平に握りこむ。
「俺を、携だけのものにして……携を、俺に頂戴」
僅かに見開かれた瞳は、確かに俺の意志を汲み取っているようだった。
「前みたいに……上書きして? 嫌なこと全部、消して。それで、しばらく離れていても耐えられるように、全部ぜんぶ欲しいよ」
俺が握ったままの手を下ろすと、携はふうと息を吐いた。
「あいつらと同じことはしないよ」
え? でも、周の時には、同じようにってしてくれたのに。
動揺が伝わったのか、ゆっくりと首を振る。
「同じことは、しない。だけど、俺のものには、するから」
「え?」
それを聞いて、ようやく合点が行った。縛ったりとか、そういう無体なことはしないってことなのか。
良かった……抱いてはもらえないのかと思った。
抱いて。心の中で、思っただけなのに。
しかも自分から強請ったくせに、今になって凄いことを口にしちゃったんだと羞恥で体が熱くなった。
「あ、あの、じゃあシャワー」
「後でいい。どうせ汗掻くし」
「え、でも汚ねえよ」
「汚くない」
「でもっ」
言い募る口を、キスで塞がれた。
驚いて動きが止まった体を抱き寄せて、唇が触れ合う距離で囁かれる。
「そっちから誘っといて、俺もうこんななんだけど」
今更待ったなんてかけるの、酷すぎない? そう言って太腿に押し付けられた部分は硬くなっていた。
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