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第137話 愛を、からだに教えて
膝裏を手の平で支えて大きく腿を広げられて、ようやくことが進むのかとほっと息を吐く。
腰の下に枕を入れて高くされて、その場所はさぞかし丸見え状態になっているんだろう。今は触れられていないのに、視線が熱くて孔が開閉しているのが判る。反り返った中心部は姿勢の変化と共に腹にくっ付く寸前でぴくぴくと頭を揺らしていた。
ふうっと黒髪を揺らして、顔が伏せられる。あんまり首を曲げると辛いから視線だけで追っていくと、足の付け根の辺りをカプリと噛まれた。
「ッひゃ……」
ビクッと跳ねる腰を押さえつけて、他の箇所と同じように丹念に味わわれる。
──そう、味わうっていうのが、一番的確な気がする。
勿論俺からしたら愛撫を受けている状態なんだけど、携のものってしらしめられているかのように兎に角ひたすら口で確認して舌で味わっては唾液を塗り籠められて。
確かに「携のものにして」って頼んだの俺だけど……こうやって思考していられるのが不思議なくらいに、本当なら快感に浸って何も考えたくないくらいに蕩けている自分がいて、それを僅かに残った理性が見下ろしている感じ。
甘い声を上げながらのたうつ体を、携は本当に足の指の先まで味わって行った。
その頃にはもう、陸で瀕死になっている魚のように、俺の反応は鈍くなっていた。感度は高まっていて、もう全身何処もかしこも性感帯になったかのように、少し触れられただけで感じてしまうのに、跳ね続けて腰が辛くて解放されないまま溜まり続ける熱が股間のものだけを元気に見せている。
「ごめん、焦らし過ぎたかな」
ぐったりしつつもぴくりと反応を返す体を愉しんでいた携が、息を弾ませている俺をすまなさそうに覗き込んだ。
その瞳は心配気に揺れているけれど、奥には情欲の炎が燃え続けている。ごくりと唾を飲んでから、うんともううんともつかぬ音を喉の奥で鳴らして、腰にわだかまる熱を少しでも逃がそうと、はふ、と息を吐いた。
熱を吐き出したいのは、俺だけじゃない。
最初からずっと張りつめさせたまま、意志の力でそれを放置して執拗ともとれる愛撫で体を解してくれている携だって辛いんだ。
だけど、今まで苦しんだ俺を傍で支えてくれながらつぶさに見て来ているから……俺の気持ちはともかく、体が本当に受け入れられるのか確認しているんだとも、思う。
あいつらとは違う。これは愛のある行為なんだって、体に教えようとしている。
再び顔が伏せて、伸ばされた舌が、中心を下から上へとゆっくり舐め上げた。鈴口で表面張力により留まっているものをチュッと吸い上げ、舌の裏側で今度は上から下へ、そしてまた表側で下から上へと続けられる。
「っんッ……たずさぁ、」
伸ばした手の平で、くしゃくしゃと艶のある黒髪を掻き混ぜる。
自分の手でするのとは全然違う、柔らかな刺激。もうずっと臨戦態勢のままいやらしく涎を垂らし続けていたものだから、あっという間に登りつめて来る射精感を抑えきれない。
「出ちゃうっ……離してっ」
必死になって頼んだのに、何故か先を口に含まれて、竿を指で扱かれる。
「あっ、やぁっ!」
血液が集中して、弾けそうに大きくなる。──間に合わない……!
目の前が白くなり、明るい場所から暗い場所へと移動した時のようにチカチカと点滅する光。一人でした時よりも心地良いのは確かだったけど、疲労感も増していて、携へ伸ばしていた手がするりとマットレスの上に落ちた。
嚥下する音に、のろのろと視線を動かす。
あ、れ……? 俺が出したもの、まさか飲んじゃったとか……。
辿り着いた先で、また喉仏が動いて、それから唇を舐める舌先が妙に赤くてエロティックに見えた。
少しだけ垂れてしまったものを舐め取る動きをされて、あっという間にまた芯が入る。
「んん……っ」
まだ余韻に浸っていたかったのに、またじくじくと腰の奥に熱が溜まって行く。口に含んだまま舌が巻き付くように動き、先走ったものを音を立てて吸われて眩暈がした。
今、確かに……俺の全部を味わわれている。
ようやく動くようになった手を伸ばして、乱してしまった髪を指先で梳いた。吐息は荒くて、漏れる声も甘くて、うっかりすると勝手に腰を押し付けるようにしてしまうから、なけなしの理性を総動員して震える指を動かした。
「たずさ、俺にも頂戴? も、大丈夫、だから」
さっき、ローションを取り出すときに見えちゃったんだ。ゴムも一緒に取り出して、それは自分の後ろに置いていたから。
そんなの、要らないのに。
あいつらがしたのと同じことはしない、って言われたって、そんなところまで気にしなくっていいのに。
それとも、逆なの? そんなことないって理解しているのに、暴れ出す感情。
「あいつらが出したから、汚いかな、中」
ぴたりと動きが止まり、上げられた顔は柳眉を逆立てていた。ぶるりと、体が震える。怖いけど──嬉しくて。
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