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第138話 すべてが愛おしさにかわる
無言で睨み付けてくる眼差しは、傍から見たらただただ怒っているだけにしか見えないだろう。だけどこれ、泣きそうなのを堪えているんだって俺は知ってる。勿論、全然怒りを感じていないわけでもないけれど。
「そう思ってないなら、中にくれよ……携。俺の中、携で充たして」
届かなくなった両手を、精一杯に伸ばして上げた。
肩で押し開かされていた足が少し下げられて、携の腰骨辺りで更に大きく開かれて、暫く放置されていた場所に熱を感じた。もう一度ローションを手に取り、指で入り口を拡げられて中へと送り込み塗り籠められる。それを自分の先端で縁に擦り付けてクルクルと動かしていたものが、ぴたりと止まった。
タイミングを計っているかのように静かに呼吸する音と、掛け時計の秒針の音が俺の緊張感を高める。折角さっきまでは解れていたのに、指でこじ開けられている部分を閉じようと、筋肉が勝手に動いてしまいそう。
「きて、携。欲しい」
胸が痛くて、涙が滲む。
煽って、怒らせるようなことまで口にして。勢いでさっさと突っ込んでくれたら良かったのに。
「大丈夫、だから」
瞬きで、頬を一筋涙が伝った。その瞬間、ぐいと突き込まれる、熱。
「んあっ……」
反射的に閉じてしまった瞼と共に、正常位で突っ込んできた男の姿がフラッシュバックした。
体重を掛けて折り曲げられていた両腕の感覚も遠くなっていて、前の二人の放ったものでぐしょぐしょで溢れそうになっているところに一息に入って来た、誰とも知らない男のモノ。
「ッひ、」
今、体を開くように、ゆっくりと入ってくるのは……。
「和明、目、開けて」
瞼に触れる優しい感触に、引き戻される。
「俺を見て」
眦をぺろりと舐められて、至近距離で視線を合わせる。
「ようやくひとつになれた」
瞳が、和いでいて、ふんわりと微笑まれる。
「たずさぁっ!」
両腕でその肩を抱き締めて、好きで好きで堪らないその人に、縋りついた。
今、確かに体内にあるその形を確かめるかのように、中が蠢く。逃すまいと、入り口がきつく締まる。ん、と僅かに呻き声をあげて、体を支えている両腕が震えた。
痛みはないけれど、圧倒的な異物感と押し寄せる排泄感。喉の奥の方にせり上がって来るような圧迫感に、息が弾む。ふーっと細く息を吐いてなんとか緊張を解こうとする俺を、じっと待ってくれている携。
やがてゆっくりと腰を回すようにして、収まり具合を確認して、馴染ませるように律動が開始された。
「凄いな……絡み付いてくる」
ふっ、ふっ、と息を弾ませて腰を動かし続ける携は、気持ち良さそうでもあり辛そうでもあった。
きっと俺も似たような表情をしてるんだろうな。
繋がってる。俺の中が気持ちいいって、こんな見たこともない顔、させてる……。幸せで、幸せで。
この表情は、絶対に他のやつには見せたくねえって。凄い独占欲。
「気持ちいい? 携」
「ああ……今すぐにでもいきそう」
眉根を寄せて、半分口を開けて喘いでいる顔が色っぽ過ぎる。
「いいよ、何回でもイって。全部受け止めるから……」
「全く……お前ってやつは」
困ったような、笑み。
「持ってけ、全部」
屈んで、また唇が降ってきて、今度は深いキスを交わした。
腰の動きが大きく速くなり、体が揺さぶられる。それでも、上と下とで繋がって、どちらからも濡れた音が溢れて、互いの喘ぎと交じり合って室内の空気が濃くなって行く。
いく、と零れた声すら中に納めたくて、俺は少し離れた唇に舌を伸ばした。
「んん……っ」
目を眇めた携は、壮絶な色香を纏い、その表情と、体の奥に届く熱いものとに押し出されるように、自分の熱を吐き出した。
ぽたぽたと落ちてくる汗が春先の雨みたいに温かい。落ちそうになる瞼を意志の力で縫いとめて、艶然とした面持ちの携を見逃すまいと瞬きすら勿体無く感じる。
腕が辛くなったのか、胸をくっ付けるようにして体重を預けられて、汗で冷えた肌が触れるのも、少し苦しいくらいの体重を受け止めるのも、全てが愛おしさに変わる。
体の隅々まで携のものになれたことが、幸せで。
中にあるものも逃したくないから、無意識で締め付けてしまって、携が呻いた。
「たずさ」
肩口に凭れて休憩していた頬に、唇を寄せる。
「さっきは酷いこと言ってゴメンな。ちょっとだけ……不安になっちゃって。でも、今はすげー幸せ……。
離れたくないよ」
頬へのキスを返しながら、携は切なそうに鼻を鳴らした。その首に手を回して、頭を抱き寄せて唇を奪う。何度も何度も中を確かめて、舌を吸って、唾液も全て俺の中に収めて。
全部全部ってきりがない独占欲。
下腹部にぴったりと収まって静かにしていたものが、猛りを表した。どくんという血流さえ感じられるほどに形がしっくりと俺の中に収まっている。
うっすらと目を開いている携が、秀麗な眉を寄せていた。
「携、大好き」
それだけで伝わったのか、今度は向こうから口付けられて、また快感の海へと溺れる。
中に放たれたものの滑りを借りて、好い所を集中的に責められて、俺はイきっぱなしのようにたらたらと放ち続けた。唇の端から漏れる吐息も喘ぎも、自分でも聞いた事がない甘いもので。
いつの間にか途切れてしまった意識も、あの時みたいな悲しいものじゃあなかった──。
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