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番外編 もしも、あの時。81話分岐ルート〈周一郎×和明〉

 ちゅ、ちゅっと繰り返し唇を吸われてから離れていく唇にちょっと寂しく感じてしまう和明。  あったかくて柔らかかったな。 「──っは……ヤバい。そんな目で見んなって」  嬉しいけど、と周一郎は怒ったように視線を外した。  そんな物欲しそうにしてるんだ、と恥ずかしく思いながらも、先刻のキスで弛緩してしまった体は温もりを求めて周一郎の腕の中から動けないでいた。  離れたくなくて、離されたくなくて、両腕に縋りつくように力を込めてしまう。  そうされて悪い気がする筈ないから、周一郎は痛みを訴える自身の体の声は無視して、更に抱き寄せた。抱きとめたままの不自然な中腰から立ち上がると、ダンスでも踊るかのように誘導しながら、小道の奥の太い南国の木の幹に辿り着きそのまま和明の体を凭せ掛けた。  潤んだまま黙って周一郎を見上げてくる瞳はやっぱり誘っているようで。  弱っているところに付け込むのは本意ではなかったけれど、そういう隙を作ってしまった氷見が悪いんだ、と心の中で自分に言い聞かせる。  経緯は判らないけれど、探し回った末にようやく見つけた後ろ姿は、確かに泣きそうな色を纏っていた。その視線の先に執行部の扉があり、何かが起こったのだと心得る。  ここで拒否されたなら、あっさりと退くつもりだった。  まだたっぷりと時間はある筈だ。もっと少しずつ距離を詰めて、今度こそ心を先に手に入れたい。  けれど、縋り付いて来る和明の手を自分から離すほどにはお人好しでもない。  再び唇を合わせると、開いた隙間から忍び込んで、ゆっくりと刺激していく。時折漏れる甘い声に、腰の奥がずくんと疼く。そろりとシャツの下から手を入れて肌に触れると、一瞬ぴくりとしたものの、特に抗う様子もない。それに気を良くしてあちこち撫で擦ると、更に口の中の温度が上がっていく。熱い。  これなら満更でもないってことか。  最初の失敗を思い出し、慎重に胸の突起へと触れていく。あの時も、ここまでは大丈夫だった。ただ、時間を掛けずに早急に下に触れてしまったから、それも敗因の一つだったろうかと分析する。それ以前に、出会ってから日も浅かったし、接点も少なかった。親密度が低かったという点も見逃せない。  今なら、どうだろう──。  唾液の交換を嫌がる様子はない。キスは気持ちが良いようで、しきりと甘い声を漏らしている。そのまま快感を得ているということは、触れられるのも、胸を弄られるのも問題ないのだろう。  少し強く摘まむと肩が跳ね、その後緩く撫でるとまた弛緩する。感度が良いようだと判断して、キスを切り上げてたくし上げたシャツの下に舌を這わせた。 「ッあ……やあっ」  先端を甘く噛むとぴくぴくと震えて、もう片方も押し潰したり捏ねるように撫でたりとしている内に硬く尖ってくる。  少し嗜虐心を刺激されて、強めに吸って跡を残していくと、びくんびくんと全身が跳ねた。声にならない叫びをあげて反らそうとしても、背中は幹に押し付けられていてままならない。仕方なく周一郎の頭を抱え込むように回された腕が、癖のある黒髪をかき混ぜた。  この印に気付いたなら、大浴場には行けない。また、もしも携とそういう関係にあるなら、見つけられた時点で溝が深まってしまうだろう。  暗い愉悦に唇の端だけで笑いながら、跳ね続ける体にこれでもかと所有印を付ける。体育の授業で見えない範囲なら許されるだろうという計算だけは働いていた。  さり気なく押し付けた太腿に伝わる感触にほくそえむ。昂ぶり始めている中心は、以前と違って明らかに欲望を溜めている。脇腹まで丹念に舐め上げて、見える範囲での上半身を愛撫し尽くす頃には、そこはすっかりと硬くなっていた。  ペインターパンツのホックを外し、チャックを下ろす。ゆっくりとではあったけれど音が出てしまうのは仕方なくて、それに気付いた和明が、恐々と見下ろしてきた。 「大丈夫、気持ち良くするだけだから」  そっと、優しく見えるようにと意識して微笑みながらしゃがみ、トランクスを下げてぷるんと飛び出してきた部分に舌を這わせる。 「ひゃっ……あ、駄目、周……」  汚いから、と拒む手をやんわりといなして、優しく優しく亀頭から竿へと舌先だけで愛撫する。すっかりその気になっている部分は例え周一郎がこのまま何もしなくても治まるはずなどなくて、それは和明も理解しているからか、強く拒めない。何より初めて他人から受ける口での愛撫に、体が蕩けそうになっていた。  ジュッと先走りと唾を飲む音が卑猥で、脳味噌の奥の方がジンと痺れる。  まだ数分しか経っていないというのに、すぐにでも爆発しそうな欲望がずんと腰に溜まっている。 「しゅ、う……も、あの、」  髪を乱して首を振る和明に「イけよ」と声が掛かる。 「で、でも……ああっ!」  先を吸われながら竿を手で擦られて、呆気なく白濁を吐き出す。閉じた瞼の裏が真っ白になり、足から力が抜けてへたり込みそうになったところをそのまま周一郎が地面に膝を突いて支え、解放されると思った中心はそのままに喉を鳴らしているから驚いた。  出したものを飲み込んだと理解するまでに数秒。  なんてことを、と羞恥に紅潮するも、そのまままた扱かれて腰がうねる。 「や、ぁ……」  初心者には強すぎる快楽。それでも再び硬くなってくる己を恥じて、和明は許してと口の中で呟きながら周一郎の黒髪をかき混ぜた。  最初の興奮が去った後、唐突に思い付く。快楽に侵食された脳裏に、行為者自身の昂ぶりはどう処理されるのかと。  告げられた言葉が本気ならば、和明だけを気持ち良くして終わろうとしているのだろう。けれど、和明を恋愛感情で好きだと告げている身からすれば、今は据え膳という状態で、きっと体は大変なことになっている筈で。  すっかり勃起してしまっている自分を慰めてくれている周一郎を見下ろしながら、これでいいのかと申し訳なく感じてくる。 「何か考えてる?」  ダイレクトに股間に反映された思いは、当然気付かれて見上げてこられる。 「だって、俺だけ気持ちいいなんて……周、は……どうすんの」 「嬉しいね、俺のこと心配してくれてんだ」  心底嬉しそうに、蕩けるような笑顔を向けられるから戸惑ってしまう。  ──俺が好きなのは、携のはずなのに。あんなシーンを見てしまった後だからって、どうして周にドキドキしちゃうんだ。  後ろめたさに泣きそうになっていると、周一郎が腰を上げた。  その部分が盛り上がっているのを見て、やっぱりと和明の眉が下がる。 「一緒に気持ち良くなってもいい?」  だから突然の提案に、思考が付いていかない。  一緒にってどういうことだろうと考えていると、下着ごとスウェットをずらせた周一郎が、自分のイチモツを和明のものに寄せてこすり付けてきた。既に和明の先端から垂れている雫を指で拡げて、更に愛撫を加えてどんどん溢れるそれを全体に塗り込めて二本一緒に握りこむ。 「んッ」 「ッあ、あ、ああっ」  ゆるゆるとした愛撫で既に張り詰めていたものが、速さを増した動きに一気に高められて終焉を迎える。我慢し続けていた周一郎も、釣られたように精を放った。なけなしの理性が、ポケットから取り出したハンカチで先端を覆い、二人分の欲望を受け止めずっしりと重くなっていく。  荒い息が整った頃、周一郎は他に飛び散っていないか確認しながら和明の服を整えた。  気だるげに全身を弛緩させて名前も知らない木の幹と周一郎に体重を預けている和明の目は、熱に潤んでいる。今ここで突っ込んで善がらせたいという欲望に従ってしまえば、もう気持ちが近付くことはなくなってしまうだろう。  だから、今は理性を総動員して我慢する。 「カズ、好きだよ」  着衣のまま、腰の辺りにキスを落とす。今唇を重ねれば、苦いだろうから。  揺れながら見下ろしてくる大きな瞳は、常になく迷っている。  これでまたあちらに戻ってしまうなら、それも仕方ない。けれど。  ──予定変更。体を攻めて、心も手に入れる。  甘い甘い快楽を教え込んで、その無垢な体に俺を刻み付けてやる。  今度こそ、両方手に入れる。その為に順序を入れ替える決心をした周一郎だった。

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