よろよろ歩く先輩を支えながら、先輩のマンションに着く。 まだ響さんは帰っていない。 寝室に連れて行き、先輩をベッドに座らせる。 先輩はうつろな目で床を見つめている。 「先輩……本当に大丈夫ですか？」 「うん……。」 「こんな時間なのに、響さんはまだ帰らないんですね……。」 「ああ……今日は帰って来ないんだ。」 「出張ですか？」 「いや……今頃、他の男を抱いてるよ。」 俺は耳を疑った。 「な、なんですか、それ。」 「昨日、言われたんだ。紳士同盟のルールで、助けた側の性的欲求を満たすのが、助けられた側の義務なんだって。事務所が大変な時に、紳士同盟から人を紹介してもらったんだって。今日は、その人とセックスしなきゃならないらしい……。」 「……そんな……。」 「まあ……恋人は俺だけだし、愛してるのも俺だけだって、言ってくれたから……。ビジネスみたいなもんなんだよ……。」 先輩はそういうが、酒の量と声のトーンから、受け入れ切れてないことは明らかだ。 「……寂しいんですね？」 「ああ……一人で寝れるかよ……。」 先輩はそのままごろんと横向きに寝転がった。 俺は先輩の横、背中側に座った。 先輩は横になったまま虚空を見つめている。 「正直に言ってくれてるから……先輩への気持ちは本当ですよね……。」 「ああ、単に、俺の問題なんだ……。」 でも、そんなこと言われたら、飲まなきゃやってらんないだろう。 俺だって、もしハルマに”仕事のために抱かれなきゃいけない”なんて言われたら……。 偉そうなおじさんに奉仕するハルマ…… 新進気鋭の青年に激しく突かれるハルマ…… …… ………… ……………… まあ、妄想のうちはいいよ！ それは犯罪！ ダメ！絶対！ 今は！響さんの話！ 響さんはね、しょうがないよ、誰を抱いてもいい権利がある。 神だから。 でも神がよそでラブラブしてたら…… やっぱり嫌だよね…… 先輩の方をチラッと見る。 寝てはいないようだ。 「リョウスケ、ここまで来たんだし、俺がまた酔い潰れるまで付き合ってよ……。」 「え！いや、ダメですよ！アル中になっちゃう……ってかなってますよ、もう！」 「……じゃないと……響が、どんなことしてるのか考えちゃって止まらないんだ……。」 先輩が、ぐすっと鼻を鳴らした。 気持ちはわかるけど、お酒は飲ませたくなかった。 もしかしたら、次は薬かもしれない。 永遠に響さんがいなくなるわけじゃない。 今だけの辛抱なはずだ……。 「先輩……。」 俺は、先輩を仰向けにして、上に跨った。 「何……？セックスで慰めてくれるの……？」 先輩から冷たい視線が投げかけられた。 「先輩……もう、俺と付き合っちゃいましょうよ。」 先輩の目が見開いた。 「……どういう意味……？」 「先輩にとっては響さん、俺にとってのハルマは不動の一位ですけど。なんか……先輩を見てるとほっとけなくて……。」 「……そんな同情されても困るよ……。どうせ付き合うって言っても、今までみたいになし崩し的にセックスするだけだろ？」 「……そうじゃなくて……。その……先輩とは色々あって……付き合いも長いし、エッチもしてるし……やっぱり……ただの先輩後輩じゃないんですよ……。だから、せめて響さんがいないときくらい、俺が代わりに……って、響さんの代わりには遠く及ばないですけど……。」 「……ハルマは、嫌がるだろ……そんなの。」 「たぶん、理解はしてもらえないと思うけど……これから三人で仲良くしていけば……。」 「……俺、昔ハルマのこと好きだったんだよ？忘れたの？手を出しちゃうかもしれないだろ？」 「……先輩は……もう響さんが大好きだから……ハルマには手を出しません！」 「なんでお前が言い切るんだよ……。」 「……先輩は……本当は優しいから……。ハルマの時だって、ハルマを慰めようとしたんでしょ……？」 俺は、先輩の恋心を弄んでしまったことに、どこかで薄々気づいていた。 「……俺は、好きな人が誰かにとられることを2回も経験したから、お前とはそういう関係にはならないよ……。今までのは、あくまで性欲発散だから。お前はただの性欲処理機だよ。」 先輩が起き上がろうとしたので、押し倒した。 「だから！もういいよ！今日はそんな気分じゃないんだ！」 先輩が珍しくキレて叫んだ。 俺は先輩を押さえ込んでキスをする。 今までのような、エロいとか気持ちいいとかそんなお上品なものじゃない。 本気で暴れる先輩の手を掴み、体にのしかかる。