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第12話 変わったこと
誕生日が来て三週間が過ぎた。
起きたら藤也 さんと一緒に朝ご飯を食べて、食器を洗ったあと洗濯機をポチッとしてから掃除をする。掃除をしたら窓を開けるといいっていうのを、この前テレビで見たからやってみることにした。
どの部屋にも空気清浄機っていうのがあるから、本当は窓を開ける必要はないのかもしれない。でも、やらないよりはやったほうがいいはず。そう思って、外は暑いけど掃除のあとは換気をするようにしている。
「十八になったからって、急に何かが変わったりはしないか」
内心、もっと大人になるのかと思っていた。もっと藤也 さんの役に立てると思った。でも、食器を洗って洗濯して掃除してなんて、誕生日前と同じだ。
「俺、ちゃんと役に立ってるのかなぁ」
考えるたびに不安になる。でも、誕生日が来て一つだけ変わったことがあった。
「今日も練習、するかな」
内容は少しずつ違うけど、誕生日の日から毎日練習をしている。もちろん藤也 さん専用になるための練習だ。
藤也 さんが次の日に忙しかったり早く起きないといけない日は、いろんなところにキスしてもらう練習をする。藤也 さんが疲れているっぽい日は、俺が藤也 さんのちんこにキスをする練習をした。
「やっと口に入るようになってきたし、今日もやりたいんだけどな」
藤也 さんのちんこは大きい。だから全部を口に入れるのは大変だ。でも、何度も練習するうちにやっと半分以上入れられるようになった。
それに口でするやり方も教えてもらった。先っぽにはキスしたりペロペロ舐めたりするのがいいらしい。竿を舐めるのもいいし、ぬるぬるにして両手で擦るのもいいってわかった。
「あとは、俺のお尻の練習だよな」
次の日が休みの夜は、いっぱいキスをしながら俺のお尻をいじる練習をする。ちゃんといじっておかないとケガをすることも藤也 さんが教えてくれた。
最初は変な感じがして、ちょっとだけ気持ちが悪かった。でも、いまはゾワゾワして気持ちがいい。お尻をいじられると、お腹の中がキュンとしてちんこまで大きくなる。それを藤也 さんは「覚えがいい体だな」って褒めてくれる。
三日前には藤也 さんの指が三本も入った。藤也 さんは体が大きいから指も太くて長い。それが三本も入るなんて、俺のお尻はなかなかすごい。
「そろそろ入りそうだな」
三日前、藤也 さんにそう言われた。「次の休みに処女をもらうからな」とも言われた。
「処女って、女の人が初めてするときの言葉だよな」
俺は男だけど、お尻に初めて入れるのもそう言うんだろうか。
「それに俺、ちんこも使ったことないんだけど」
よくわからないけど、全部藤也 さんが教えてくれるからきっと大丈夫。
「窓、もう閉めてもいいかな」
閉めるとき、外がものすごく暑いことに気がついた。そういえば天気予報で「例年にない暑さ」って言っていた気がする。こういう日は熱中症になりやすいらしい。
(熱中症って、前に俺が倒れたときのやつだよな)
あのときもすごく暑い日だった。頭がボーッとして手足も痺れてきて、気がついたらビルの横にあるゴミ置き場に転がっていた。もし知り合いのお姉さんが見つけてくれなかったら、俺はそのまま裏道の端っこで死んでいたかもしれない。
だから、暑いのは怖い。もし藤也 さんが俺みたいに倒れたらって思うだけで怖くなる。藤也 さんがいなくなるかもって考えるだけで怖かった。
お母さんがいなくなったときよりも、藤也 さんがいなくなるほうがもっと怖い。怖くて悲しくて、いなくなる想像をしただけで泣きそうになる。
「……今日はスーッてする入浴剤にしよう」
こんなに暑いなら、スーッてすると気持ちいいはず。そう思って、まだ何時間も後のお風呂の用意をすることにした。
夕方、いつもどおりの時間に藤也 さんが帰ってきた。玄関で顔を見たとき、ちょっとだけホッとした。大丈夫だと思ってはいたけど、やっぱり熱中症にならないか心配だったんだ。そんな俺に藤也 さんはいつもどおり「いい子で待ってたか?」って言いながら頭をポンって撫でてくれた。
夜ご飯はうなぎだった。うなぎなんて初めて食べた。もちろん見たことはあるし匂いを嗅いだこともある。でも食べることなんて一生ないと思っていた。
(うなぎは魚だけど、あれならまた食べられるかな)
甘辛いタレがすごくおいしかったから、あれなら何個だって食べられる。それに皮も骨も気にならなかった。
本当は魚がちょっと苦手だ。とくに骨が面倒で、それに柔らかい皮もあまり好きじゃない。たぶん藤也 さんは気づいているんだろうけど、俺はいつも「平気です」と言って食べるようにしていた。
(だって、魚も食べられないのかって呆れられたくないし)
藤也 さんには呆れられたくないし嫌われたくない。だから魚もちゃんと食べられるようになりたい。
(そういえば、うなぎのお店に連れて行ってくれるって言ってたっけ)
あんな高くておいしいうなぎのお店なんて、俺が入っても大丈夫なんだろうか。わからないけど、いつか藤也 さんと行ってみたい。
ご飯を食べたら藤也 さんがお風呂に入って、それから俺も入った。お風呂に入る前に「今夜は最後までヤるからな」って言われた。
「最後まで?」
言われたとき、最初は何のことかわからなかった。お風呂に入って、体を洗い始めてから「処女を差し出すってやつだ」と気がついた。
俺は大急ぎで体中を洗い直した。きっと体中を舐められる。綺麗に洗っておかないと、汚いままじゃ藤也 さんが嫌になるかもしれない。汚いと嫌われてしまうかもしれない。
ゴシゴシ擦ったあと、もう一度ゴシゴシ擦ってから湯船に浸かった。そうしたらヒョワッてしてびっくりした。スーッとする入浴剤のときは擦りすぎたら大変なことになるんだと初めて知った。
お風呂から出たら、藤也 さんが髪の毛を乾かしてくれた。ちょっと前から毎日してくれるようになったんだけど、いまだにしてもらってもいいのか悩んでいる。
(他人の髪の毛を乾かすとか、絶対に面倒くさいはずなのに)
一度だけ「自分で乾かします」と言ったことがあった。でも「俺の楽しみを奪うつもりか?」と言われて断れなかった。
(嫌じゃないなら、いいんだけど)
そっと鏡を見たら、かっこいい藤也 さんがドライヤーを片手に俺の頭をワシワシしている。それを見ただけで顔がポッポと熱くなった。
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