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冬のアイスクリーム
仕事終わりに、ゲームセンターに立ち寄る。
このゲームセンターは尾上さんの遊び場で、俺達が出会った場所でもある。仕事終わりにちょっと遊んで帰ると連絡があったので、尾上さんの顔だけ見て、俺は帰るつもりだ。
店に入ると、いつもの場所に尾上さんを見つけた。好きなメダルゲームの前でいつも通り足を組んで座っている。
「あれ。尾上さん、珍しいもの食べてますね」
「お疲れ様。これか?」
尾上さんの手にはチョコレートのアイスクリーム。店内にある自販機で買えるものだ。
「寒くないんですか? そこまで暖房効いてませんよね?」
十二月も半ばになり、すっかり冷え込んできた。店内はうっすらと暖房が付いているが、自動ドアが開くとそこから風が入ってきてしまうし、入口から近いと普通に寒い。石川県民はアイスの消費量一位だなんて、バラエティ番組でもよく言われているが、確かに冬場でもアイスを食べている人は多い。
「ちょっと寒いけど、美味い」
本人はお構い無しにコーンタイプのチョコアイスを食べている。うーん、俺もちょっと食べたくなってきた。
「俺も買ってこようかな」
「バニラのやつ買ってきて」
「あれ、尾上さんもう一個食べるんですか?」
「いや? お前のだけど」
いまいち話が飲み込めない。少し眉を顰めると、尾上さんはニヤリと笑って言う。
「一口くれってこと。俺のもやるからさ、はい」
食べかけのチョコアイスを差し出してくる。少し溶け気味だったから、急いでかぶりつく。久しぶりにアイスクリームなんて食べたけど、やっぱり美味しい。
「良いですね、アイス」
「そうだろ」
俺も尾上さんにあーんしたいな。
自販機まで早足で向かい、コーンのバニラアイスを買う。商品を手に取るとやっぱり冷たくて、こんな所で食べるものじゃないよなあと改めて思った。冬のアイスは、暖房がバッチリ効いた部屋で食べるものだ。
「ちゃんとバニラ買ってきましたよ」
尾上さんは自分の分を食べ終えて、俺のアイスクリームを待っていたようだ。
「お、ありがとう」
「一口どうぞ。はい、あーん」
包装を剥いたアイスを差し出す。尾上さんは少し躊躇していたが、大きめの一口でかぶりついていた。
「あーん、じゃないだろ」
「一口くれって言うからー。尾上さんもやってたのに」
「自分で食べるんだよ! するのはいいけど、されるのはなんか嫌だし……」
尾上さんは唇を少し尖らせて、照れているようだった。ただの「あーん」だけではずかしがっちゃって、可愛いなあ。ウブなのかムッツリなのか……。どちらかと言うとムッツリかな。
「あ。尾上さん、じっとしててくださいね」
口元を指で拭うと、尾上さんは驚いて、こちらを少し睨んだ。
「……言ってくれれば自分で拭くのに」
周りに聞こえないよう小声で訴えている。
「いいじゃないですか。俺が先に気づいたんだし」
唇に触りたいとかそういうやましい話ではなく、尾上さんと白い液体がセットだと嬉しいだけだ。
「なら、そのニヤけた面はやめた方がいいぞ」
「あ、顔に出てます?」
「うん。……余計な事考えてる時の顔だ」
尾上さんは素早く辺りを見渡して、周りに誰もいない事を確認している。何をするつもりだろうとちょっとドキドキした。
「垂れてる」
アイスを持つ右手を突然掴まれた。呆気にとられていると、溶けて俺の指に垂れたアイスクリームを、尾上さんが、ペロリと舐めあげた。
顔に熱が集まっていく。一瞬の出来事に思考が追いつかない。
いやいやいやいや!? 何考えてんの!?
「お前面白い顔するな」
「いやいやいや、それの方がよっぽどダメだよ!?」
「誰もいないから良いんだよ」
尾上さんの感覚どうなってんだよ。たまたま人いないだけだよ? いつ人が来るか分からない場所で、そんな大胆なこと出来る?
「自分は良いのに俺はダメなのか」
「舐めるのはワンランク上でしょ……!」
小声で諭すが、当の本人は何処吹く風だ。少し拗ねている気さえする。
「そうか? イチャついてるんだから一緒だろ」
当たり前のように言うものだからタジタジになってしまう。一回ライン超えたら、その先にラインないんかい!
「いや、その……あーんはともかく、舐めるのは見られたら言い訳できないし。あと、エロいからさぁ」
指フェラなんて言うくらいには、指を舐めるという動作はフェラを連想させるというか。無意識だとしても、タチが悪すぎる。
「あ? ……あーそういう事か」
察していただけてなによりです。
「意識したのか」
「少しだけ、ですけど」
嘘をついた。少しだけなんてもんじゃない。
「じゃあ、今日それする……?」
自分の耳を疑った。それはつまり、尾上さんが自らフェラを……フェラチオをしてくれるって事ですか……!?
「……え? いつも下手だからしたくないって」
「やらなきゃ上手くならないだろ」
確かにそうかもしれないけど、尾上さんがそんな積極的な事を言うなんて。
「……ほんとにいいんですか?」
「今日はしてやってもいい」
ほんのり耳たぶが赤い。余裕そうに見えて、ちょっと恥ずかしがっているのが可愛い。そうと決まれば、尾上さんの気が変わらないうちに急がなければ。
「ねえ、キリのいい所で帰ろっか。……待ってるから」
「わ、分かった」
尾上さんは視線を外して、ゲーム画面に向き直った。真面目な顔をしているが、ソワソワしている。本当はすぐにでも連れて帰りたいのだが、尾上さんのご奉仕は決定しているのだ。急ぐことはない。溶けかけのアイスクリームを口の中に放り込んで、白く汚れた指先を見せつけるように舐めとった。
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