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呑まれるほど弱くもない
同棲している二人の番外編
今日は尾上さんが飲み会で帰りが遅い。
尾上さんは無駄な飲み会が嫌いだ。仕事の飲み会は、絶対に出なければならないものしか出ない。それも、必ず一次会で帰ってくる。同僚もそんな尾上さんを無理に誘ったりしない。そんな尾上さんが、夜遅くまで飲み会。
前日に友人と飲み会だと聞いているが、あの尾上さんが喜んで飲みに行く『友人』とはどんな人なのだろう。事前に地元の友達とだけ聞いている。そういえば、俺は尾上さんの交友関係をあまり知らない。職場の愚痴をたまに聞くが、友人の話はほとんど聞かない。共通の趣味で出会ったから、尾上さんの人となりについて、まだまだ知らない事ばかりなのだ。
時刻は午後十時半。LINEに『今から帰る』と連絡があった。南町辺りで飲んでいるらしいので、あと二十分くらいしたら帰ってくるだろう。それにしても、いつも通りぶっきらぼうな文面だ。
尾上さんは基本的に愛想がない。そういう事に対して、媚びないというより興味が無い。必要最低限なコミュニケーションをするために外面を作るだけ。そう思うと、俺に対しては、感情を出している方なのではと思う。喜んでいいのだろうか。少しは心を許してくれている……のか?
ソファで映画を見ていたはずが、いつの間にか寝てしまっていたらしい。玄関からドタバタと音がして、あまりの音に一瞬で目が覚めた。もしかして、尾上さんの身になにかあったんじゃないか……そんな嫌な予感に掻き立てられ、急ぎ足で玄関へ向かう。
「たかまつー」
そこにはベロベロに酔っ払って、玄関に座り込み、ヘラヘラと笑う尾上さんの姿があった。
「おかえりなさい……」
「ただいま」
開いた口が塞がらない。にへっと笑う尾上さんはめちゃくちゃ可愛いのだが、こんな尾上さんを見たことがない。そもそも尾上さんはお酒に強いので、全く酔っている素振りを見せないのだ。赤く色づいた頬でニコニコとしていて、ふにゃふにゃと喋っている。
「たかまつ。寝てた?」
「待ってましたよ」
居眠りしてたけど。
「そっか。ありがとう」
ゆっくり立ち上がって、またふにゃふにゃと笑う。可愛い〜。
足元はしっかりしているが、フラフラはしているので、肩を貸したらもたれかかってきた。
「ん……大丈夫だから」
尾上さんは力無く言う。歩けないのではなく、俺に体を預けてくれているような、そんな気がして嬉しかった。俺の肩を離れると、自身で歩き出す。泥酔している訳ではなく、酔って甘えているのだろう。
尾上さんはリビングのソファに腰掛けると、ネクタイを手早に解いてシャツのボタンに手をかける。どうしても手元に視線が行ってしまう。一つ一つボタンが外されていくのを見て、唾を飲んだ。えろ……。
「何見てんだよ。変態」
「す、すいません」
別にいいよと笑っている。やっぱりいつになく明るい。
「水飲みたい」
二つ返事でキッチンに向かった。尾上さんはちょっとわがままなので、俺を手先のように使う。そんな尾上さんに付き合う事も、俺の中では嬉しいことの一つなのだ。
キッチンでグラスに水を組み、サイドテーブルに置いた。
「はい、どうぞ」
「飲ませて」
仕方なくグラスを口元に持っていくと、そっぽを向いてしまった。違うということらしい。
うーんと一瞬考えて、ピンと来た。持っていたグラスの水を口に含み、尾上さんに口づける。口の中に水を押し込めると喉が上下した。されるがままだったところを見ると、どうやら正解らしい。
そのホッとした一瞬のスキをつかれた。すごい力で腕をひっぱられ、ソファに引きずりこまれる。バランスを崩して、尾上さんにもたれ込んでしまった。
尾上さんはニヤリと笑う。
「俺の好きにしていい?」
頭がカッとなった。顔が熱い。
……完全にあの日の俺の真似してる。すごい煽り方するじゃん。
初めて想いを伝えて、身体に触れた日。ベッドに組み敷いた、尾上さんの紅潮した顔。今でも鮮明に思い出せる。
耳元でそう煽ると、尾上さんはさっと立ち上がって寝室に行ってしまった。フラフラもしておらず、ほとんど酔いが覚めているのかもしれない。
いやもう、それってそういう事だよね? お誘いって事だよね?
俺は喜んで寝室にすっ飛んで行った。
「今日は俺がやる」
スイッチが入っているらしい尾上さんは、馬乗りになって俺を見下している。下半身はトランクスに靴下、シャツははだけている。いや……なんていい眺めなんだ。俺の一物は少し主張し始めていて、妙に興奮しているのが尾上さんにもバレバレだ。。
「……まだ何もしてないのに」
ズボンの上からそれを軽くなでられて、ピクリと反応してしまった。尾上さんは嬉しそうな顔をして、俺の唇に軽くキスをする。俺だってキスしたい。尾上さんの首元に腕を回して強引に唇を奪う。そのまま舌をねじ込むと、吐息と一緒に抗議の声が漏れた。それでも尾上さんはキスが好きだから、俺に流されるままになっている。可愛い。
「大人しくしてろ」
唇を離すと、尾上さんは涙目になって、肩で息をしている。ちょっと怒っているのかもしれない。
ムッとした顔で俺のペニスを取り出すと、右手で軽くしごき始めた。ゆるゆると上下に動かしている間もそれ以外の刺激は与えられない。もどかしくて俺がちょっかいをかけようとするも、ダメだと言って聞かない。今日は本当に自分でやりたいらしい。
「ん……もっと触ってよ」
尾上さんは何も言わない。動かす手を少しだけ早めて、膨れツラのままだ。マジでもどかしい。俺の余裕がなくなるまで焦らすつもりなんだろうが、こっちは初めから余裕なんてない。
「ねっ……尾上さん」
我慢出来ない。懇願するような声が出てしまった。尾上さんは俺の顔をジッと見つめると、小さくため息をついた。
「堪え性ないな……待ってろ」
それだけ言うと、尾上さんはベッドサイドからローションを取り出した。ボトルから粘着質な液体が手のひらにこぼれ落ちる。四つん這いになり、後ろのすぼまりをほぐすようにローションを塗り込む。
「ふー……んんっ……ん」
尾上さんはいつもお風呂でこの『作業』をしている。どうしてもブランクがあるから、切れたりしたらマズイし、十分に解す必要があると。それを俺に任せて流されてしまったら嫌だと言っていた。穴を広げるようにして、指を一本、二本と入れ、バラバラに動かしている。目の前で苦悶の表情を浮かべる尾上さんを見ているだけなんて、どんな拷問だ。
「待って」
ちょっかいをかけようとしても、絶対に拒否だ。このまま襲ってもいいのだが、明日一日口を聞いてくれないのは嫌だから、大人しく従っておく。
「ん……そのまま寝てて」
仰向けに寝ている俺にまたがると、散々解した尻穴に俺のペニスをあてがった。感触を生で感じて……いや、生?
「尾上さん、ゴムは」
「今日はゴムいらない」
いやいやいや。今までゴム有りでしかした事無かったし、何ならゴムしろって尾上さんが言ってたのに? しないと性病になるぞ、後で精液の処理がめんどいんだ、などと口を酸っぱくして言っていたのに?
「今日はそういう気分なんだよ。黙って襲われてろ」
ニヤリと笑って「たまにはいいだろ」なんて。言ってる事は偉そうだけど、ただただいやらしい! いや、俺としては全然良いんだけど。
そのままめり込むように中に入っていき、スムーズに最奥まで届いた辺りで尾上さんが小さく喘ぐ。
「ぁ……入った」
少し安心した表情がいじらしくて可愛い。中で少し大きくなってしまい、尾上さんがビクンと震えてはキッと睨みつけてくる。そんな目で見ないで、不可抗力ですよ。
膝立ちになった尾上さんは、気持ちいい所にグリグリと押し付けるように動く。前立腺気持ちいいんだろうな。ゆっくり動き始めて、だんだんと大きなグラインドになった。
「あ♡……はあっ♡あっ……」
自分の気持ちいい所しか考えてないんだろうけど、俺もめっちゃ気持ちいい。目を瞑って感じ入っている姿に興奮する。
プルプル震える足を頑張って立たせて、体制を変えていた。
「あ……おく♡きもちい♡……」
いつもより深く入り込む。尾上さんのM字開脚、最高。ヤバい……すぐイきそう。ぐちゅぐちゅと音を立てて出し入れされる様が丸見えだ。尾上さんも相当良いのか、俺の視線にも気づかず必死に腰を降っている。いつにも増して顔がとろけている。エロすぎる、やべぇ、すぐイクわこれ。
「あっあっ♡……んぅ♡……っ」
「動くよ」
言葉にならない制止が聞こえたが、もう我慢できない。尾上さんの腰を掴んで、自身も腰を打ち付けた。尾上さんの矯正がいっそう大きくなる。
「あっだめぇ……はアッ♡あっ♡」
部屋に肉がぶつかる音と液体をかき混ぜる音が響く。尾上さんの嬌声と吐息が合わさって、頭が沸騰していた。
尾上さん少なくとも二回はイッていそうだ。ドライでイキやすいらしく、普通にセックスしてても二回はイッていると恥ずかしそうに申告してきた事がある。
「あ♡あ〜♡♡イクッイクから……♡だめ♡……あ♡きもちい」
今ので三回目。今日の尾上さんは相当盛り上がっているらしい。俺もイきたくて仕方がない。
「尾上さんっ……俺イきそ」
「ああっ♡中に出してっ♡……中がいいっ♡たのむから♡」
涙目で絞り出すような懇願、その言葉でなけなしの理性が切れた。尾上さんの中に出したい、俺の精子を受け止めて欲しい。その後のことも何も考えられず、ただイクまで腰をうちつけた。。
「尾上さんっ中に出すよ…あ……っぁ」
どくどくと白濁を吐き出した。尾上さんの中から自身の精液がゆっくりとこぼれ落ちるのを見て、それもまた興奮した。
「尾上さんっ……生で中に出しちゃった」
「たかまつ……」
尾上さんはゆっくりとまぶたを閉じた。疲れてしまったらしい。
「おはよう」
尾上さんは俺よりも先に起きて、朝食のパンを焼いて、コーヒーを入れていた。
「はい……おはようございます」
髪は少し湿っており、朝一でシャワーを浴びたのだろう。
「飯できるまで時間あるし、お前もシャワー浴びてくれば」
「じゃあ」
いつもの調子の尾上さんに少し戸惑った。
シャワーから上がると、ダイニングには俺の分のパンとコーヒーも用意されていた。食卓に着く。いただきます。
「尾上さん、二日酔いとか大丈夫?」
「平気」
トーストを片手に尾上さんの様子をうかがう。妙にギクシャクしてしまうのは何故だろう。尾上さんは平然としてるし、これはもしかして記憶が無い?
「あのー……昨日の」
「ちゃんと覚えてるよ。ぜーんぶ、何言ったのかまで」
尾上さんはコーヒーを一口すすった。
どうやら俺の言いたいことを汲み取ってくれたようだ。尾上さんは平静を装っているが、耳たぶが少し色づいていた。
「尾上さんでも、そういう日あるんだ……」
「そういう日っていうか、昨日友達に言われたからな」
友達になにを言われたら、ああいう行動に出るんだろう。エッチな話でもした?
「彼氏出来たって話をしたんだ。そしたら大事にしろよ。逃げられないようになーだってさ……俺は偏屈だかって自覚はある」
俺は尾上さんが頑固でちょっとわがままな事も知っている。それでも、いや……それが好きなのかもしれない。尾上さんの真っ直ぐなところ、人と違うところ。『尾上さんらしいところ』はいっぱいあるし、そのらしさが俺は本当に好き。だから、安心して欲しいなと思う。
「それは……尾上さんの事をよく知ってますね」
それにしても、『彼氏』が出来たことを報告出来るような友達なんだなと思い、少し嬉しくなった。尾上さんに気が許せる友達がいるんだ。
「お前のこと考えてたら、なんか会いたくて。まぁ……したくなった。酔ってたんだよ」
我慢できなくなったのか、少し俯いて目をそらす。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに、馬鹿正直な人だ。
「じゃあ、尾上さんは酔ったら、生中出しお願いしてくるんですね?」
尾上さんが目を大きく見開いた。
「バ、バカ!! うるさい! 忘れろ! もうしないからな!」
尾上さんは面食らった顔で、俺にひとしきり暴言を吐いてキッチンに篭ってしまった。
あーあ、怒らせちゃった。今日も可愛いなぁ。
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