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第1話
某県、私立高等学校にて。
昼休憩の喧騒を遠くに聴きつつ、月島 遥斗 は仏頂面を晒しながら机と向かい合っていた。
「勉強、楽しい?」
不意に、頭上の方から声をかけられる。遥斗は見上げずともその声の持ち主を理解し、端的に返事を済ます。
「全く。」
日野 拓海 。遥斗の幼馴染みである。
「じゃあ、なんでそんなに必死なんだよ。」
一瞬、間を置いた遥斗は呟く。
「さあね。」
本来言いたかったその言葉を飲み込んで変わりに不器用な言葉を吐き出す。だが、それでよかった。
理由がなんであれ、培ったものは己の力になる。損はない。
「と、言うかテスト来週だろ?お前こそ勉強しなくていいのかよ。」
「いいよ。俺には遥斗がいるし。どうせ今回もやるんだろ?勉強会。」
その言葉に少し、胸は高鳴る。
「あぁ、当然だろ。そうでもしないと、お前留年確定だろうしな。」
「なっ、流石にそこまでじゃねぇし!」
「本当に言いきれるか?」
その一言に拓海はうつ向く。
「ま、今回も俺がバッチリ教えてやるよ。」
昔からこうだった。お互いに知り尽くした幼馴染み。知らないことなんて何もない。だからこそこれからのことも知っていきたい。いつしか遥斗はそう思うようになっていた。
「そんじゃ、今日からよろしくな?」
「今日から!?」
「良いだろ、別に。」
「ま、まあ、構わんが。」
「んじゃ、放課後に図書室集合で。」
「あぁ、ちょっと遅れるけどいいか?」
「あーはいはい、いつものね。」
「いつものって言うな。まあ、いつものだけど…。」
「はあ、やっぱりモテるね。でも断るんだろ?」
「当たり前だ。」
「なんで付き合わないんだよ?」
「別に、恋愛沙汰にそこまで興味がないだけだ。」
そのはずだ、と心の中で小さく呟く。決めつけた結論とは裏腹に、つっかえるような、或いはもやのかかったような本心に蓋をする。
「勿体無い。遊べるのは今のうちだけなんだぞ?」
「何が勿体無いだ。俺らももう3年生だろ?遊んでる場合じゃねぇよ。」
「あ…。」
「『あっ』てお前………。」
呆れてため息を吐く。だが、そんな日常が遥斗にとって癒しとなっているのは事実だ。そんな日々がずっと続いていく。それが遥斗と拓海の日常であり、理想であり、夢である。
「ま、まあ、それは一旦おいといて、今まで好きな奴とかいなかったのか?」
「居ない…と思う。」
「そうかぁ…いないかぁ…。」
「お前は?そう言う奴いたの?」
「あぁ、うん。」
頬を少し赤らめながら答える拓海。その表情は、現在居ると言っているのと同義であった。澄みきった遥斗の心にインクが一滴垂れる。でもそれじゃまるで、そこまで思考し、また考えるのをやめる。
「告んねぇの?」
「その勇気があったらやっとるわ!!」
「ま、いいさ。いつか届けれるといいな。その言葉。」
「…あぁ。」
雑多を遠くに聴く、春の午後。2人の笑い声だけが教室に響く。高校生活最後の年。
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