1 / 7

タチとネコ 前編 ※

こちらの作品は短編集です。 新タイトルが完結する都度『完結』設定に致します。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「誠治、ただいまー」  彼氏の家に上がり込み、誠治いるかー? と言っていた頃がもはや懐かしい。  先週から同棲を始め、結婚指輪も見に行った。  もう俺の家でもあるから『いるか?』ではなく『ただいま』と言えと誠治に指摘された。  休みの前日ならまだしも、毎日午前様の俺が「ただいま」と声をかけるのは気が引ける。しかし、誠治は必ず言えと言う。寝ていれば聞こえないし、起きていれば出迎えるからと。  そう言われてもこればっかりは慣れなくて、いつもひかえめの「ただいま」になる。  でも、今日は普通に声をかけた。  今日は土曜日。病院勤めの誠治の休日は、基本俺と同じく日曜日。  今までも土曜日は「いるかー?」と図々しくズカズカ入り込んでいた。なぜなら、誠治は休日前は必ず俺を出迎えてくれるから。 「友樹さん、おかえりなさい」 「おう、ただいま」  誠治の頭を抱き込んでキスをした。  基本誠治は俺を立てる。今日は甘えたいのか甘やかしたのか、俺の出方を見る。そして、今日は甘えるように抱きついてきた。 「今日はお酒臭くないですね。飲まなかったんですか?」 「ああ、飲まないようにしてきた」 「なぜです? どこか調子でも悪いですか?」  急に医者の顔になり、右手で脈を測って左手は首にふれてくる。 「違う違う。元気だって」 「じゃあなぜ……」  いつも客に飲まされて、酒を飲まずに帰ることはほとんどない。そうか、心配かけるなんて思いもしなかった。 「ごめん、心配かけて。ちょっとさ。たまにはシラフで……あー、抱かれてみたくなってさ」 「なんだ、そうだったんですか。……って、今抱かれたいって言いました?」 「言ったぞ?」 「え、あれ?」  雰囲気が違うと言いたいんだろう。  俺の出方を見て甘えたはずなのに、間違えたのかときょとんとする。  それはそうだろう。だってさっきまではタチの気分だったんだ。  俺は誠治と抱き合うときはいつも酒が入ってる。仕事では飲まされ、休みの日は誠治と飲む。  誠治と一緒に飲む酒は美味しくて、ついつい飲みすぎる。  だから、たまにはシラフで誠治を抱きたいな、と思ってたんだ。  それなのに予想外なことが起こった。誠治を心配させて医者の顔にさせてしまった。  俺は誠治の医者の顔に弱い。あの顔を見せられると、途端に甘えたくなる。  と言っても、ただネコの気分にさせられるだけで、俺は可愛いネコにはなれないが。 「誠治はもう風呂入ったろ?」 「ええ、済ませましたよ」 「んじゃ俺入ってくるわ」 「友樹さん」 「うん? ん……」  誠治は、風呂場に向かおうとした俺を引き寄せ唇をふさいだ。 「……は、……ンっ……」  なんだよ、マジのキスじゃねぇか。  風呂入るっつってんのに。 「ンんっ……」  やっぱ誠治はタチだと燃えるんだな。もうこれは否定させねぇぞ。  しつこく絡め取るように動く誠治の舌と熱い吐息。頭の芯がしびれてぼぅっとしてくる。  俺も負けじと舌を絡めにいきながらも、文句をつけた。 「おい……風呂、入るっつってんだろ……」 「そんなの、終わったあとでいいですよ」 「はっ、あっ……」  キスだけで、もうすでにゆるく立ち上がったそこに誠治のものが当たる。俺よりも硬いそれに思わず笑いが漏れた。 「なに、もう興奮してんのかよ」 「友樹さんこそ」 「おい、こすりつけんな、……あっ、後ろグリグリすん……なっ」 「ほしくなっちゃいます?」  耳元でささやかれてゾクゾクくる。 「……んなの、とっくにほしくなってるっつの……っ」  主導権を握ってくる誠治への反発心で、俺は唇をもさぼりながら誠治をソファに押し倒す。  服をたくし上げ、乳首に吸い付き、誠治の硬く張りつめたものを取り出した。 「あっ、ちょ……え、今日は友樹さんがネコなんじゃ……っ」 「さぁな?」  もともとタチの気分で帰ってきたから誠治を甘やかしたい。でもネコの気分にもさせられて後ろがうずく。  この矛盾を解決するには、最終地点を逆転させればいいだけだ。そう、繋がる瞬間まで誠治をたっぷり甘やかせばいい。   「あ……っ、ゆ……友樹さ……っ、んんっ」 「もう乳首立ってんぞ。ほんと敏感だよな、お前」 「ゆ、友樹さんだって、すぐ立つ……でしょ、んっ、ア……っ」  俺がタチなのかネコなのか分からず困惑顔でよがる誠治が可愛い。  初めて誠治と身体を繋げた日を思い出す。  店の客である恐ろしく美形の男、冬磨が、両親の死で精神を病んだ。二言目には死にたいと漏らし、毎晩のように泥酔して店で暴れることもある。  店の迷惑とかそんなことよりも、いつか本当に死んじまうんじゃないかと心配でいてもたってもいられなかったとき、精神科医の誠治が客としてやってきた。  職業を聞いた瞬間、俺は誠治に頭を下げた。病院に行きたがらない冬磨の話を聞いてやってほしいと、なんとか診てやってほしいと無理を言った。 「それだと本来の問診や心理検査ができませんので、ただの気休め程度になってしまいますよ」  そうしぶる誠治に「それでもいいから、どうか!」と頼み込むと、交換条件に「マスターがほしい」と言い出した。一目惚れだという。俺は面を喰らいながらも、背に腹はかえられないとその条件を飲んだ。  そして、まずは身体の相性だろう。そういう話になり、初めての夜に挑んだあの日、俺たちはお互いにバリタチ、バリネコだと思い込んでいた。  ところが、俺の乳首への過剰な反応に誠治が困惑し始めた。仕方ねぇだろ。開発済みの乳首を責められたら、そりゃ声も出る。  え、もしかしてネコ? 俺の愛撫を受けながらそんな視線を投げかけてくる誠治に、仕方なく自分はリバだと告げると、目をぱちくりとさせたあと破顔した。 「それ、最高ですね」 「最高?」 「私もリバなので」 「え、まじで?」  俺は店のこともあり揉め事は困るから、今までそれほど相手はいなかった。みんなに出会いの場を用意してやりながらも、自分はかなり保守的だ。  だからだろうが、今までリバ同士は経験がない。タチかネコかのどちらかだった。  それはそれで、まぁなんとかいくもんだけど、そのうち物足りなくなる。片方ばかりだとストレスになる。とはいえ浮気はしたくない。だからいつも長続きしない。 「あんた、どっち寄り?」 「友樹さんはどちらですか?」 「俺に合わせようとすんな。どっち寄りなんだよ、ちゃんと言え」 「私はどちらでも」 「あ?」  この期に及んでまだ合わせようとしてんのか、と苛立った。  しかし、どうやらそうではないらしい。 「私はタチが一度、ネコが二度、経験があります」 「……え? そんだけ?」  三回だけ? 嘘だろ?  驚愕して固まる俺に、誠治は慌てるように訂正した。 「あ、お相手に合わせた回数が、という意味です。……ええと、その……」 「……あ? ああ、寝た回数じゃなくて寝た人数か」 「あ、はい、そうです」  俺の二つ上だから今二十九で三人か。  あれか。たぶんワンナイト的なのはないんだな。……真面目か。  まあ、俺もそうだけど。 「だからというわけでもないですが、ネコの方が慣れてます」 「そっか。俺はタチ寄りだ」 「それならピッタリですね」 「リバ同士か。たまに逆転できていいな」 「そうですね」  あのときの誠治の笑顔に、俺は騙されたんだ。  誠治は否定するが、絶対にこいつはタチ寄りだ。タチのときのしつこさが半端ない。ネコだとあんなに可愛い誠治が、タチになるとギラギラと獲物を狙う猛獣のようだ。  おかげで俺は、すっかりネコにハマっちまった。  たまに逆転という話だったのに、逆転の頻度がだんだん多くなっていく。それも俺が自分でネコをねだる頻度が、だ。  まぁどっちにしても、俺たちが結婚指輪まで見に行くほど上手くいっているのは、間違いなくリバ同士だからだ。  こんなに相性のいい相手、もう二度と現れないだろう。  いや、現れなくていい。  俺はもう、誠治が最後でいい。 「はは、ガッチガチじゃねぇか。まだ始まったばっかだぞ」  俺の手の中で存在を主張する誠治のモノ。それを舐めるつもりで乳首から顔を上げると、誠治の手が俺の胸元を掴んで引き寄せ唇をふさいだ。   「んぅっ……っ……」  そして、痛いくらいに張り詰めた下半身に手が伸びてきて、誠治が笑う。 「友樹さんだって、ガチガチじゃないですか」 「誠治がエロい声出すからだろ」 「友樹さんだって、出る、でしょ」  布越しに強めに撫でられ声が漏れる。 「……っう、あ……っ、ほんっと、負けず嫌いっ、あっ」  俺も負けてられないと誠治のモノを手でしごく。 「あっ、友樹さ……んっ、それで……んんっ、今日はどっちがネコ……ですか?」 「さぁ、どっちだろな?」  誠治の手が俺のズボンを下ろし、直接それをさわるのかと思えば、指を俺の口に突っ込んできた。 「んぅっ、あ……」 「どっちがネコですか?」  どっちと聞きながら指を舌に絡ませる。  タチは譲らないというように、誠治の鋭い眼が俺を射抜く。  ゾクゾクして後ろがうずく。ネコのときは可愛い誠治が、タチになると豹変する。俺をたちまちネコにさせる。  俺の唾液をたっぷりとすくい取った指で後ろの孔を撫で、ゆっくりと中に入り込んでくる。 「……っうぁ、あっ」  たまらず誠治の上に倒れ込んだ。 「はぁ、あっ」  誠治は唇を俺の耳に寄せ、クスッと笑う。 「ああ、もう返事はいりませんよ。友樹さんのココが答えてくれました。ネコがいいって」 「せい……じっ、こん……にゃろ……っ」  あーくっそ。もっと誠治を甘やかしたかったのに。  

ともだちにシェアしよう!