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第七章 2

 また思い出しては赤面する。  いろいろ恥ずかしいことは頭の隅の隅へと追いやるが、愛おしいという気持ちだけはいつも心の真ん中に残っている。  洗濯物を干すのを手伝ってくれた遙人は、今は屋上の手摺に凭れて遠くを見ている。その後ろ姿を見てなんだか急に、一緒に住んでいるんだという実感が湧いた。  これまで大概洗濯は遙人が帰ってからしていた。ここで一緒に干すなんてことは、当然今日が初めてだ。  たぶん、オレはそういうところを、彼に見せたくなかったのかも知れない。いろいろ晒していても、何処か一線を引いて隠したいこともあるんだ。  今は愛しあった翌日に、こうやって一緒に洗濯物を干したりなんかしている。  しかも、夏生が引っ越し祝いがわりに遙人の休暇をくれたお陰で、数日のんびりできる。  オレは妙に、嬉しい気持ちと、遙人を愛おしく思う気持ちが溢れ返ってきてしまった。  その背にぎゅっと抱きつく。 「詩雨さんっ?!」  遙人が吃驚して顔だけをこっちに向ける。 「急にしたくなった」  遙人の背に顔を押しつけ、もごもご言う。 「嬉しいですね。昨日からすごく嬉しいことばかりだ。詩雨さんからしてくれるなんて」  昨日から……。  オレは、昨日自分からキスをねだったのを思い出し、耳まで真っ赤になったような気した。  遙人が自分の腹に回ったオレの両手をぎゅっと上から握った。しばらくそのままお互いの体温を感じ合う。 「ね、詩雨さん、見て」   遙人が体勢を変え、オレを前に抱え込む。そして、遠くを指差した。 「ほら、あそこ。ピンク色の帯みたいだ」  オレは彼の指の先に眼を向けた。 「桜だ……」  歩くと少し遠いが、桜の並木道がある。遙人とも何度か行った……。 「そう言えば、今年行ってないな──今から行くか」 「いいですね」  オレは遙人の腕のなかから擦り抜けて先を歩いた。あとから追いかけてきた遙人が、オレの手を取り、恋人繋ぎをする。 「この屋上いいですよね。何で今まで連れて来てくれなかったんです?」 「え…………」  オレは理由を言おうと思ったが、 「ま、いいじゃん。それに……これからは、いつでも来れるだろ?」  そんな言葉に変えた。  にこっと遙人が微笑み「そうですね」というと、頭上からオレの髪にちゅっとキスを落とす。    ふたり並んでゆっくりと歩きながら、オレは考える。  いつか離れる時が来るかも知れない──そう考えるのは、もうやめよう。例えその時が来るとしても。  ただただ、これから続く愛おしい日々で、心を満たして行こう。  遙人。  おまえも願ってくれ。そんな日々が続くことを。  ま、遙人だったら「当然だろ?」って言うかもな。                                        The End

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