22 / 22
第七章 2
また思い出しては赤面する。
いろいろ恥ずかしいことは頭の隅の隅へと追いやるが、愛おしいという気持ちだけはいつも心の真ん中に残っている。
洗濯物を干すのを手伝ってくれた遙人は、今は屋上の手摺に凭れて遠くを見ている。その後ろ姿を見てなんだか急に、一緒に住んでいるんだという実感が湧いた。
これまで大概洗濯は遙人が帰ってからしていた。ここで一緒に干すなんてことは、当然今日が初めてだ。
たぶん、オレはそういうところを、彼に見せたくなかったのかも知れない。いろいろ晒していても、何処か一線を引いて隠したいこともあるんだ。
今は愛しあった翌日に、こうやって一緒に洗濯物を干したりなんかしている。
しかも、夏生が引っ越し祝いがわりに遙人の休暇をくれたお陰で、数日のんびりできる。
オレは妙に、嬉しい気持ちと、遙人を愛おしく思う気持ちが溢れ返ってきてしまった。
その背にぎゅっと抱きつく。
「詩雨さんっ?!」
遙人が吃驚して顔だけをこっちに向ける。
「急にしたくなった」
遙人の背に顔を押しつけ、もごもご言う。
「嬉しいですね。昨日からすごく嬉しいことばかりだ。詩雨さんからしてくれるなんて」
昨日から……。
オレは、昨日自分からキスをねだったのを思い出し、耳まで真っ赤になったような気した。
遙人が自分の腹に回ったオレの両手をぎゅっと上から握った。しばらくそのままお互いの体温を感じ合う。
「ね、詩雨さん、見て」
遙人が体勢を変え、オレを前に抱え込む。そして、遠くを指差した。
「ほら、あそこ。ピンク色の帯みたいだ」
オレは彼の指の先に眼を向けた。
「桜だ……」
歩くと少し遠いが、桜の並木道がある。遙人とも何度か行った……。
「そう言えば、今年行ってないな──今から行くか」
「いいですね」
オレは遙人の腕のなかから擦り抜けて先を歩いた。あとから追いかけてきた遙人が、オレの手を取り、恋人繋ぎをする。
「この屋上いいですよね。何で今まで連れて来てくれなかったんです?」
「え…………」
オレは理由を言おうと思ったが、
「ま、いいじゃん。それに……これからは、いつでも来れるだろ?」
そんな言葉に変えた。
にこっと遙人が微笑み「そうですね」というと、頭上からオレの髪にちゅっとキスを落とす。
ふたり並んでゆっくりと歩きながら、オレは考える。
いつか離れる時が来るかも知れない──そう考えるのは、もうやめよう。例えその時が来るとしても。
ただただ、これから続く愛おしい日々で、心を満たして行こう。
遙人。
おまえも願ってくれ。そんな日々が続くことを。
ま、遙人だったら「当然だろ?」って言うかもな。
The End
ともだちにシェアしよう!