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第10話

「あの2人は何が好きなんでしょうか」  薫は厨房で、考えあぐねいていた。店長がやって来て言った。 「ジェリーはぷるぷるして黄色の甘い食べ物が好きだ。悪いな。よくあの団長のことを話していた。おれも。おれはジンだ。ゴリラ属」 「薫です。ぷるぷるして黄色の甘い食べ物ですか」 「団長とよく食べたらしい」 「店長はどうして、ジェリーを雇おうと思ったのですか?」 「雇うつもりはなかったさ。泣いてたんだ。おれの店の前で涙で顔をぐちゃぐちゃにして。その日は午前中は大雨が降っていて、午後には止んでいた。髪も濡れてびしょびしょだった。無視出来なかっただけだ」 「わたしも無視出来ないかも知れま「ふざけないで」  ジェリーの怒鳴り声に、薫の言葉が遮られた。話し合ってくださいとは言ったけれど怒鳴りあってくださいなんて言ってない。薫は慌てて客席の方に戻る。 「カオルを頼む。ふざけんじゃないわよ。  あの子と最初に出会ったのは団長でしょ。  逃げるな。オレからも他の仲間からも逃げた。  オレは団長の言葉を聞いて、騎士団に入団した。あの言葉も嘘なのかよ。あたしは、2度とオレの前に姿を見せるな」 止める間もなくジェリーが、店を飛び出して行った。 「ジキル。何を言いましたか」 「いや、俺は」 「追いかけます。わたし。待っていてください。  わたしは寮に帰りますので」  遅れて薫も外に出る。幸いにも足跡が雪にまだ消されていない。足跡を辿り、ジェリーを追いかけた。ジェリーの足跡は雪が降り積もっている噴水広場まで続いていた。噴水の淵に座るジェリーの隣に座り、ぶかぶかのコートの半分をジェリーにかける。ぴったりジェリーに近付いた薫は何も言わなかった。 「何も言わないのかしら」 「部外者があれこれ踏み込むべきではありません。話したければどうぞ。わたしへの質問でも構いません」 「あんたにも大切な言葉はあるかしら?」 「大切な言葉。はい。変わるきっかけになった言葉はあります。ジェリーもあるのですか?」 「ええ。オレと団長の出会い。話してもいいかしら?」 「はい。風邪ひきますよ。雪の中でおしゃべりしたら、寮に行きましょう。団長に店にいるように言いましたから」 「分かったわ。あんたに風邪。ひかせたくないわ。少し我慢してよ」 ジェリーが横抱きに薫を抱き上げた。人の体温があるだけで暖かい。暖かいけど、これは恥ずかしい。 「あっあの。ジェリー。今回は甘えます。  恋人とかにやるべきだですよ。額にキスも。  免疫がないので対応に困ります」 「あら。オレにされて嬉しくない?  表情に出ないから、分からないわ。  オレはあんたを気に入ったよ。少しの辛抱だから。ポンチョ。オレが団長にあげたわけじゃないから、寮に忘れたの。あんたにあげるわ。  早く行きましょ。キスはあいさつよ」 走り出したジェリー。あまりにも速度が速いので、舌を噛まないように薫は何も答えなかった。キスの挨拶だけはやめてもらいたいなと思っていた。

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