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「あの姫宮様がお作りになられたタルト、こちらが、そんなにも食べましたら、夜ご飯が食べれなくなりますよと窘めたぐらいに、大河様も大層お気に召したぐらいでしたもんね。また作りましょう」
「⋯⋯はい」
俯き加減に照れくさそうに笑った。
ふふ、と笑っていると、何か言いたげに小さく口を開いていた。
どうしたのだろうと首を少し傾けていると、「あの⋯⋯」と躊躇いがちに声を発した。
「先ほどのことを訊きたいのですが、何故、江藤さんはあそこにいらしたのですか」
「ああ、そうでしたね。言ってませんでしたね」
「あ、言いたくないのでしたら別にいいのですけど」
「いえ、姫宮様にご迷惑をおかけしたのですし、何より気になることでしょう。そのぐらいのこと言いますよ」
気にしないでくださいという意味を込めて笑いかけると、困ったような顔をして目線を下げてしまった。
本当、遠慮をするお方だと思いながら姫宮が一番聞きたがっていることを口にした。
話し終えたほぼ同時にそれぞれ頼んだものが並び、一拍置いた後、ゆっくりと理解している様子の姫宮が「そう⋯⋯だったのですね」と独り言のように呟いた。
「安野さん達に心配を、そして、江藤さんにご迷惑をおかけしましたけど、江藤さんがいなければ怪我をしていたかと思いますし、特に安野さんがすごく心配するところでした。江藤さん、ありがとうございました」
控えめな笑みを見せてくれた。
それはまるで、日陰でひそかに咲く野花のようでその主張しないところがかえって引き立たせられ、今も心を掴まれたように魅入ってしまった。
「⋯⋯江藤、さん⋯⋯?」
「あ、いえ。姫宮様が何もお怪我をされていないようで本当に良かったです」
誤魔化すように笑ってみせた。
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