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ー友情ー22

 望はある非番の日に買い物がてら、雄介が働いている春坂消防署の前を通ると、そこで消防士たちが訓練しているのを見かけた。  その中で、桜井雄介の姿を見つけると、望はその後を追いかけてしまった。  とりあえず元気そうな桜井の様子に、 「もう、完全に大丈夫みたいだなぁ」  と医者目線でひとりごとを漏らす。  そんな望に雄介も気付いたのか、それとも訓練中に視界に望の姿が入ったのか、雄介は訓練中なのにも関わらず望がいる所へ抜け出してきた。 「今日はどうしたんですか?」 「あ、いや……たまたまここを通りかかったっていうだけで……」  望は振られて慌てて答えると、 「あ! 違っ! そうそう! 買い物! 買い物をしに行こうとしていたら、たまたま、桜井さんの消防署の前を通ったので、様子を見てただけですよ……あ、ほら! 足の方は大丈夫みたいですしね」  と急に振られたように語る。 そして最後に乾いた笑いを付け加える。  ある意味、今の望は鼓動が最高潮になっているのかもしれない。  桜井がまさか望の姿を見かけて声をかけてくれるなんて思ってもみなかったことと、もしかしたら望的に今気になっている人から急に声をかけられたからだろう。 「お陰様で今はもう大丈夫ですから」 「それなら、良かったですよ」  そうごくごく普通の会話ができ、気持ちよく感じている望。 自然と笑顔が溢れてきたのだから。 そりゃ、そうだろう。好きな人に声をかけられたら悲しい気持ちにはならないのだから。  そんな他愛のない会話をしている途中で桜井は同僚に呼ばれたようだ。  そこはもう仕方がない所なのかもしれない、今の桜井というのは仕事中なのだから。 「おーい! 桜井!」 「はいはい! 分かっておりますがな!」  そう言うと雄介はもう一度望の方へと向き直り、 「では、まだ、仕事がありますし……また……」 「あ、ああ、うん……あ! ちょ……!」  望は思い出したかのように、この前の告白の返事をしようとしたが、もうその頃には桜井の姿はなく、望はそこで諦めたような息を吐く。  桜井は元の所に戻ると、望に向かって手を振り、それに答えるように望も桜井に向かって手を振り返す。 「また、言えなかったか……」  望は独り言を漏らすと、再びため息を吐く。  仕方なしに予定していた買い物に向かおうとしていた直後、消防署の方からけたたましいサイレンの音が鳴り響き、消防車が出て行くのを見かける望。  その消防車には雄介が乗っていた。 「あ、ああ……火事があったのか……!?」  そうのんびりしていた望だったが、望の進行方向でこの辺一帯を轟かせるような爆発音が響き渡った。

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