そうして、望は雄介からのメールに動揺を隠せない様子で顔を伏せ、モップを手にして早く雄介に会いたい気持ちを和也に伝えた。 「だってさぁ、望のそんな顔、久しぶりに見る顔だぜ。　今の望はいつも見せないような表情してんだからな」 「うるせぇーって言ってんだろうが……！」 　そして、望は和也の頭を叩く。　望が和也に対して叩くことは日常茶飯事なのだが、和也的には気にしていないようだ。 　その直後、わざとだったのか？ それとも本気で痛かったのか？ 「痛ってぇー！！」 　和也の声が響き渡った。 「何も本気で叩くつもりはねぇだろうが……！ あー！ 超マジに今のは痛かったんですけどー！」 　どうやら望は和也の頭を本気で叩いたようだ。　そう和也が叫んでいるのだから。 　和也は涙目になりながらも、今の拍子に落としてしまった箒を拾う。 「お前がしつこいからだろっ！ お、お前……？」 　望は和也に向かい話を続けようとしたが、望が言葉を最後まで言わないうちに白衣の内ポケットに入れておいた携帯が再び震え出す。 　望が携帯を開くと、そのメールの相手は雄介からだった。 『せやったら、よかったわぁ。 ほな、どないする？』 　そう言ってくる雄介に一瞬望はハテナマークを頭に浮かべたのだが、 『とりあえず、俺がお前のとこに迎えに行くよ。 後はそうだな……会ってから決めるのはどうだ？』 　そう望が返事をするとまた直ぐに返事が来た。 『あ、うん……分かった。 ほな、待ってるし、早よしてな』 『ああ』 　それだけ望は一言だけ返すと、和也にも早く終わらせるように促し、望も持っていたモップを早く動かし始めた。 　しばらくして和也は軽く息を吐くと、 「なぁ、後は部屋の掃除だけだし、雄介が待ってるんだろ？ それなら、少しでも早く行って会った方がいいんじゃねぇのか？」 「ん？ え？ あ、うん……」 　和也の意外な言葉に戸惑いながらも、今まで動かしていた手を止める望。 「本当にいいのか？」 「ああ」 「分かった、なら、ありがとうな。 じゃあ、今度何か奢るよっ！」 「じゃあ、美味しい焼肉なぁー！」 「ああ、うん、それでいい」 　望はそう言いながら持っていたモップを掃除用具入れに入れて鞄を手にすると、足早に部屋を出て行く。 　部屋に残された和也は一人大きなため息を吐くのだった。 「やっぱ、恋人がいるっていいよなぁ。 早く俺も見つけねぇと……！」 　そう和也は一人部屋の中で呟くと再び掃除を始める。 　一方、望の方は駐車場へと向かい、愛車に乗り込むと逸る気持ちを抑えながら雄介が待っている消防署の前へと向かうのだ。 　雄介が働いているのは春坂消防署。 　この地域は春坂市という。　だから望が働いている病院の名前も春坂という地名が付いていた。 　望が十分程車を走らせていると、雄介が働いている消防署が見えて来る。