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ー記憶ー26

 この話が解決しなければ、また望の笑顔が消えてしまうだろう。  和也にとっては、別にそれは気にならないことだが、その問題が仕事に支障をきたすのは非常に困る。 私たちの仕事は人の命を預かるものだから、プライベートでのトラブルを仕事に持ち込むべきではない。 そんなことは百も承知だが、望の行動は意外だった。  普段はクールで真面目な性格のように見えるかもしれない。 しかし、プライベートでトラブルがあると、それをなんとか仕事に引きずり込んでしまうようだ。 「ホント……そこは意外だったぜ……」  和也は頭の中で考えていたのか、そう呟きながらコーヒーを飲み終えた。 その頃には雄介の家の明かりが灯っていた。 「やっと、帰ってきたか……」  現在の時刻は午後九時半。  和也がここに来てから既に三十分が経過していた。  和也は雄介が帰宅したのを確認すると、雄介のマンションの近くのコインパーキングに車を停め、雄介が住むマンションへ向かい、雄介の家のチャイムを鳴らした。  返事があり、そっとドアが開いた。 「よっ!」 「お、お前!? 何でここにいるん?」 「ま、いいから……上がらせてよーん」  和也はノリというか、いつもの感じで靴を脱ぎながらそう言った。 しかし、雄介は和也の突然の訪問に焦りながらも、ちょっと強引に家に入ろうとする和也に、 「ちょ、待ってや……って、急になんやねん……! いきなりはホンマ無理やって!」  和也の追い出そうとする雄介に対し、和也は真剣な瞳で雄介を見上げ、 「望のことで話があるんだよ……だから、入れさせろ」  雄介とすれ違う際に、雄介の耳元でそう言い、後はもう勝手に部屋に入っていく和也。

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