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ー記憶ー25

「そうか……ま、じゃあ、仕事終わらせて掃除して帰ろうぜ!」 「ああ、まぁ……そうだな」  そう答える望の声が、いつもに増して低いような気がする。 でも、多分明日にはまたいつもと変わらない、元気な望の姿を見せてくれるだろう。  今日は和也が望のために動く日だ。  仕事を終えた和也と望は、今日は駐車場で別れる。 「じゃあ、また、明日な……」  和也は望に向かって元気よく言うが、 「ああ」  望はいつも以上に暗い声で返してきた。  とりあえず、和也はそこは気にせずに車に乗り込み、今日は自分の家ではなく雄介の家に向かうことにする。  流石に和也は雄介の家の場所を知らなかったが、今日はこっそりと病院内で調べておいた。  雄介の家は住宅街で、繁華街に比べると本当に静かな場所だ。 住宅街から漏れてくる灯りと街灯だけがポツンポツンとした明かりを照らしていた。 雄介が住むであろうマンションも見つかった。  和也は雄介の家の近くに車を停めて、雄介が住んでいるであろうマンションの部屋を見上げる。しかし、どうやら雄介はまだ帰宅していないようだ。  和也はまるで刑事ドラマの刑事のように雄介の家の側に車を止め、車の中で雄介が帰宅してくるのを待っていた。  雄介の帰宅は、彼の部屋の灯りが点くことで分かる。 現在の時刻は夜の二十一時を回った所。 しかし、未だに雄介が帰宅する気配はない。 和也は雄介が帰ってくるまで待つ覚悟で、先程買った缶コーヒーの蓋を開けて飲み始める。

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