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ー記憶ー55

「あ、ああ……まぁな。 あ! そうだ! 俺、風呂に入ってくるなっ!」  そう言って、望は何かを誤魔化すように話を反らせ、リビングを出てお風呂場へ向かった。  雄介は望を見送った後、すっかり冷めてしまった自分のコーヒーをテレビを見ながら啜る。  今までは望の寝息と時計の秒針くらいしか聞こえていなかったが、今聞こえてくるのは風呂場からの水音だ。  雄介はそこで一つため息を漏らす。  恋人がお風呂に入っているのに妄想しない男はいないだろう。  そういう風に妄想してしまうほど、雄介も望に溺れてしまっているという事だ。  いや、恋人がいるのにここの所、望のことを抱いていないという想いがより妄想力を駆り立ててしまっているのかもしれない。  完全にご無沙汰の雄介。  だがやはり望も仕事をしていて忙しいのは十分承知している。 だから望を抱くことを諦めてしまっている体は、妄想だけが暴走してしまっているのであろう。  そうだ。 今、こうして二人だけで一緒にいられているだけでも十分に幸せなのだから、それ以上望んでしまったら、また何か幸せなことが逃げてしまうかもしれない。 雄介の中で望と一緒にいられることだけで満足しようとしているという事だ。 そうだ、これ以上高望みしていても、幸せが逃げて行ってしまいそうで、逆に言えば妄想だけで終わらせようとしているのであろう。  雄介はコーヒーを飲み干すと、キッチンへと向かう。 その途中、リビングのドアの開閉音が聞こえてきた。  どうやら望がお風呂から上がってきたようだ。  望がお風呂から上がってくると、ソファに座りテレビを見始める。  雄介はコーヒーカップを洗い終えると、望がいるソファに向かい、相変わらず頭の拭き方が荒いようで、望の髪の毛は濡れていた。 そこにいつものように気付いた雄介は、望の首に掛けてあったタオルを手に取り、髪の毛を拭き始めるのだ。 「まったくー、頭の拭き方、相変わらずなんやからな。 ちゃんと拭いてこなぁ、今度、望が風邪引くことになんで」

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