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ー記憶ー56

「いいんだよ……わざとなんだからさ」  そう望は雄介に聞こえるか聞こえないかの声で呟く。 「へ? なんやって!?」 「聞こえてなかったんならいい……」  そして雄介はいつものように望の頭を拭き始めるのだ。  今はこんな小さな事でも幸せに感じているのであろう。 「ほな、俺は……ふぅ……ん」  雄介は「お風呂に入ってくる」と言おうとしたのだが、その言葉を何かこう温かいもので唇を塞がれてしまい、言葉にならなかったのだが、雄介は直ぐに望からのキスだという事に気付いたようだ。  いつもは望ばかりが顔を赤くしているのだが、その望からのキスに顔を赤くする雄介。  好きな相手からの不意打ちのキスというのは鼓動が早くなるものだ。 「早く……お前も風呂に入って来いよ。 昨日の約束果たしてやるからさ」 「昨日の約束……?」  雄介は昨日約束した事を覚えていないのか首を傾げてしまっている。 「忘れてるんならいい」  そう望は雄介から視線を外すと今度はテレビの方へと視線を向けるのだ。 「ああ、ほな、まぁ、とりあえず……俺、風呂に入って来るな」  そう何も覚えてないような感じでお風呂場の方へと向かっているのだが、どうやら今望が言っていた事が気になっているらしく、腕を組み首を傾げながら向かう。

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