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ー記憶ー86

 渡りたいと思うのだが、こういう時に限って本当に車も沢山往来している大通り、全くもって信号無視で渡るっていうのは不可能だ。 でも今は一分いや一秒だっておしい。 こういう時に限って信号というのはなかなか変わってくれないもんだ。 これが普段だったら別に待っていられる位の時間ではあろうが、こういう時というのは本当に長く感じられる。  やっと信号が青へと変わると雄介は信号で大勢待っていた人達を走り掻き分け望の元へと急ぐのだ。  それとほぼ同時位だろうか。 遠くの方から救急車のサイレン音が聞こえて来ている。  そして雄介はやっとの事で望がいる現場へと行く事が出来た。  今、雄介は走って来たせいで呼吸は乱れ、その整えながらもその中心部へと人だかりを掻き分け向かう。  その中心部が望じゃない事も願いながら……。  でももしそうでなくても雄介の場合は消防士なのだから人を助けるという意味も込めてもあるのであろう。  そしてその人だかりの中心部へと雄介が辿り着くと、その中心部へと辿り着いた雄介。 そこにいた人物に思わず言葉を詰まらせてしまう。  しかもその人物は心臓マッサージをされていた。 「……へ? 望?」  そうぼそりと想いの人の名前を呼ぶと、 「ちょ、コイツ、俺の連れやねん! 変わってくれへんか!?」  そう言うと雄介は心臓マッサージを開始する。  普通の人ならば、こんな状況を見てしまったらパニックになるのかもしれないのだが、やはり雄介の場合には職業柄というべきなのか直ぐに必死になって心臓マッサージを繰り返す事が出来たようだ。  さっきまで聞こえていたサイレンの音は直ぐにそこで止み、もうそこには救急隊員の姿があった。  ここから先はプロに任せる所なのだから、雄介はそこで救急隊員に任せるしかない。 そこで望から離れる雄介。  救急隊員が来たという事で少しは安堵するのだが、まだ終わった訳ではない。 ただ救急隊員が来てとりあえず一安心とだけでしかないのだから。 救急隊員と共にストレッチャーで救急車へと乗り込む雄介と望。  しかしまだ望の意識が戻ったっていうわけではなかった。

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