143 / 1471

ー記憶ー87

 でも、雄介にはもう望のことを見守るしかできない状況だ。 それに、ここからは救急の仕事でもあるからかもしれない。  そしてここからは、もう雄介からしてみたら今は神に祈るしかできない状態でもある。  救急車の中では、救急隊員が一生懸命動いていた。  雄介だって望がこんな状況なのだから、手の一つ位握りたい所なのだが、流石にこの状況で自分たちというのは、男同士の恋人だからそんなことができるわけがない。  兎に角、今は望が意識が戻るのを願うしかない。  その時、車内に機械音が鳴り響く。  先ほどまで反応を示してなかったのだが、機械音が動き始めたのだ。  その音に反応したのは救急隊員だけではない。  雄介は両手を握り神にも祈る思いで俯いていたが、その機械音に顔を上げる。  その機械音は誰もが聞き覚えのある音だ。  そう、望が意識を回復してきているという合図だ。  それと同時に、車内から安堵の息が漏れた。  そしてその直後、望はゆっくりと瞳を開けた。  その動作が雄介の視界に入り、救急隊員を退かせてまで雄介は望の側へと向かい、 「大丈夫か? 望……」  雄介は周りを気にせずに望の手をギュッと握りしめる。 「……え? あ……うん……?」  まだ望の方は意識がハッキリとしていないのか、ボーッとしながら雄介の質問に答えながら天井を見上げていた。 「そっか……ほなら、良かったわぁ」 「なぁ、ここは何処だ?」 「ああ、ここか……ここは救急車の中やで」 「ふーん……」  望はそう言うと、 「じゃあさ、君は?」 「………!?」  望からの質問に、目を見開く雄介。

ともだちにシェアしよう!