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ー記憶ー88
その望の質問に対して、雄介は言葉を詰まらせる。
今、望は雄介に向かって『君は……?』と問ってきたように思える。
その言葉が雄介の頭の中で何回もリピートされているのかもしれない。 しばらくの間、雄介はフリーズしてしまっているのだ。 しかし、望はなぜ雄介に向かってそんなことを言っているのだろうか。 そして、まだ雄介の頭の中では今の望の状況を理解できていないのであろう。
雄介はもう一度、確認のために望に問う。
「今、俺に何て言っておった? もしかして、お前……俺のこと知らんのか?」
こんなありきたりなこと、聞きたくはない。 だけど確かめたかった。 なぜ自分のことを「君は?」と聞いてくる理由を。
「君は耳が悪いのかな? だからだなぁ、君は一体誰なんだよ……?」
やっぱり聞き間違いではなかったようだ。 何度聞いても質問の答えは一緒だ。
とりあえず望は雄介のことを覚えてはいないようだ。 それだけは今この場でハッキリと分かった。
今まで望の側に居た雄介だったが、望の元から離れて椅子に腰を下ろす。
完全に今ので分かったことがあった。 二度も質問しているのに望は二度とも同じ答えだったのだから。
そう、望は雄介のことを完全に知らない存在となってしまっているということだ。
記憶がないということは、世間で言われている記憶喪失というものであろう。
救急車のサイレンの音は止み、望が働いている病院へと入って行った。
救急車が止まり、後ろの扉が開くと、先に降りたのは雄介だ。
するとそこに居たのは和也だ。
「……え? あれ? 雄介?」
「……へ?」
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