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ー記憶ー100

「それなら、多分、一緒に住むっていう理由にはうってつけのような気がするわぁ!」  お風呂場に響くような声に、雄介はちょっとビックリしてしまったが、とりあえず望と一緒に住む理由が見つかったことに一安心。 雄介はさっきまでの険しい表情から一転し、いつもの笑顔を取り戻した。 「これで、きっと大丈夫やって……。 これで、望と一緒に住めるって訳やな」  雄介にとってはなかなかの良いアイディアが浮かんだということだ。 そのまま気分爽快の状態でお風呂場を後にする。  雄介は休みになると早めに起きて望の所に行く前にデパートへと寄り、一人でデパート内を歩いていると何かいいものを見つけたようだ。 「あ!」  と声を上げ、きっとまた何かいいアイディアが浮かんだのだろう。  そして、今頭の中に浮かんだアイディアの具現化のためにそのフロアへ向かう。  望は今独り暮らしをしているのだから、きっと見舞客等はいない。 そう考え、入院に必要なものを揃えるためにフロアを歩き始める。  必要なものを手に入れた後、まだ面会時間まで余裕があるようで、雄介は喫茶店へと入り一人でお茶を楽しむ。 しかし、この一人の時間を満喫するのはどれだけ振りだろうか。 一人まったりとした時間を楽しむこともいいが、やはり目の前に恋人がいないと寂しい気がする。 目の前に恋人がいれば笑顔で過ごせるだろうが、一人だと笑うことさえ難しい。 恋人ができてから、雄介は一人の時間が寂しいものに感じられるようになった。  社会人になり、この春坂市に移ってから一人暮らしをしている雄介。 その当初は男なら寂しくなんてなかったが、恋人である望ができてからは一日おきでも会えるだけで楽しい日々を過ごすようになってしまった。 今の雄介にとって、一人の時間は寂しいものに変わっていた。  そして、面会時間になる頃、喫茶店を出て望のいる病室に向かう雄介。  望の病室は二階の一番端にあり、個室だ。 もう雄介にとっては馴染み深い場所で、案内板なしでも真っすぐ望のいる病室に向かうことができる。

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