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ー記憶ー120
二人が恋人同士だと知っている和也は、その二人の行動に楽しそうに微笑んでいた。
そして、待合室で午前の外来が終わるまで雄介は待たされた。 その間にも待合室にいる患者さんたちは次々に減っていく。
すると、その時、
「桜井さん、どうぞー」
和也がどうやら冗談めかして雄介のことを呼び出している。
そして雄介は和也に呼ばれると診察室の方へと向かう。
「おい……やめろよ、和也……! 恥ずかしいし」
「ま、いいよ、いいよ……ほら、完全に戻った望に会いたいんだろ?」
「あ、ああ……まぁ……」
「望も早く雄介に会いたいから、午前中の診察を早めに終わらせてくれたんだからな」
「……へ?」
和也は雄介に診察室に入るよう促す。
雄介は先程までは望に会えることに興奮していたが、今はその興奮が冷めてしまっているのか、自分の行動が恥ずかしいと感じているようだ。
このままでは望の元に向かうことができない。
そこで和也に背中を押され、雄介は診察室のドアを開ける。
そこにいたのは多分いつもの望だろう。 雄介はまだ望の記憶が戻ったということを知らないので、まだ疑心暗鬼の状態だ。
しかし、雄介の目の前にいる望は、雄介が研修に行く前とは違い、仕事をこなしているようで、雄介は安心する。 雄介が研修に出掛ける前は、望は仕事をしていなかったはずだ。 だけど今は診察室の椅子に座ってちゃんと仕事をしていた。
しかし、雄介は冷静になってしまい、望にどう話しかければいいのか悩んでいるようだ。 望の前にいるのに、直視できていない。
雄介とは裏腹に、和也の方は雄介の背中を押して診察室に入るよう促し、雄介は椅子に座る。
急に冷静になってからでは、久しぶりすぎて言葉に詰まる。
一方、望の方は相変わらず雄介に会うことが久しぶりすぎて、直視できないようだ。
このままでは何も先に進まない。
「……ったく、お前らってば」
和也はその二人の様子に呆れたようにため息をつき、
「雄介、腕見せろよ」
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