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ー天災ー7
そして、現場に到着していた消防車からは放水が行われていた。 雄介を含む春坂消防署の隊員たちもすぐに準備を整え、消火活動を開始した。
しかし、その直後、雄介の背後にいた女性から絶叫のような声が聞こえた。
「まだ、この中に私の子供がいるのよ! 助けて!」
という声に、雄介は驚きを隠せなかった。
「……え? 他の隊員が人命救助をしてるんじゃないんか?」
雄介は独り言を漏らしつつ、女性の声に耳を傾けた。 火災現場では、まず人命救助が優先されるべきで、消火活動も同時に行われるのが通例だ。 周囲には多くの消防隊員がいるはずで、彼らが人命救助にあたっているはずだ。
果たして本当に人が中にいるのだろうか? 雄介は消防隊員を信じるべきなのか、それとも女性の言葉を信じるべきなのか? そうだ、確かめるしかない。
雄介の頭には、火災現場に入って確認するという答えが浮かんだ。
「すみません! お子さんは何階にいますか?」
ヘルメットを取りながら、雄介はパニック状態の女性に声をかけた。 今は彼女が落ち着くのを待つしかない。
すると、彼女の声がか細く伝わってきた。
「……十階の……1020号室……です」
「十階か。 わかった、私が見てくるから安心して待っててくださいね」
雄介はそう告げると、十階へ向かう準備を始めるのだ。
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