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ー天災ー37
望はいつものように鍵を開けて玄関から入るが、今日に限って部屋の中から人の気配を感じることができない。 人はいないのだから気配というのは感じないのかもしれないが、それでもいつも以上に人の気配を感じられないのは気のせいだろうか。
まあ、確かにそうかもしれない。 雄介は朝急いでいて車で行ったらしいのだから、当然雄介が部屋にいるわけがない。 それでもやっぱり今日は部屋の中がいつもと違う気がして仕方がない様子の望。
そして望はリビングの方へと進んでいく。
それでも何だか、やはりいつもとは違う気がして仕方がないようだ。
泥棒にでも入られてしまったのであろうか。
いや、泥棒に入られてしまったのであれば部屋が荒らされていてもおかしくはないはずだが、それがないところを見ると、やはりそれは違うような気がする。
それとは逆に部屋がこう静まり返っているような気がしているのだから。
寧ろ雄介が家にいなくて、こんなに静かに感じられたことは今までなかった事だ。
望は鞄をソファへと置くと、今まで着ていたスーツを脱ぎ、ソファの背もたれへと掛ける。 そしてネクタイを緩めていると、ソファの前にあるガラステーブルの上には何か紙らしき物が置いてあった。
ガラステーブルの上に置かれた紙。 雄介が何かメモって置いて行ったのであろうか。 そんな物があると人間というのは気になるものだ。 望はソファ越しにその手紙というのか紙の方へと視線を向ける。
よく見てみるとその紙には『望へ』の文字が入っていた。
「……へ? 俺へ!?」
それに気付いた望はソファの方へと腰を下ろし、その手紙を読み始める。
『望へ
何から話していったらええんやろ? とりあえずな、気がついたのかもしれへんけど、俺、今は東京にじゃない所におるんや。 前にレスキューの試験受かったやろ? その関係で『異動』が決まってもうてな。 ほんで、ホンマ、スマン! それをな望になかなか言えんくって、そう、言おう、言おうって思うってたんやけど、望と会う時間もあまりなかったし、その、俺がこうなかなか言えんかったのがホンマ悪かったんやけどな。
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