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ー天災ー39

 いつの頃からか、望は雄介のことを好きになっていた。 確かに最初の頃は、雄介のことを嫌いだったはずだ。 少なくとも、誰かのために早く仕事に復帰したいと、まだ手術して数日目で歩こうとしていた時、望に雄介は語ってくれていた。 そこで、何かが弾けたというのか、違う仕事でも人を助けるところに共感が持てると思ったからなのかは分からないが、望が雄介のことを気になり始めたのは多分そこからだろう。 それからは、雄介と付き合い始めて恋人といると心の温かさを教えてもらって、気付いた時には本当に雄介のことが好きになっていたのかもしれない。  そして、雄介と恋人同士になって、色々と教わってきているような気もする。  恋人といると、楽しい気持ちになってくる。  幸せという気持ち。  後は、温もりだろう。  それは、雄介に対して望が初めて思って言った言葉だった。  そう思ったからこそ、雄介にはそう伝えた。  だから、望にとって雄介の存在は大きかったのかもしれない。  もし雄介と出会わなかったら!?  この気持ちさえも分からないまま、仕事だけを続けていたのかもしれない。  その後、望は急いで準備をして、車で出かける。  あれから一週間後。  離れてからは、本当にお互い連絡も取っていない状態の雄介と望。  そう、望は自分からはそんなにメールをしない性格で、雄介の場合には自分でそういう状況にしてしまったのだから、望に連絡することができないという状況なのかもしれない。  だから逆に、それが良かったということだ。  そう、望は雄介がいない日々と同じ毎日を送ることができているのだから。  何も変わらない平凡な毎日。 だが、仕事だけはいつもと変わらずに忙しかった。  それが逆に、雄介のことを忘れさせてくれていたのであろう。  仕事を終わらせると、望はいつもの部屋に戻る。 そして、書類やパソコンに目を通していた。  部屋内には、ただただ望のため息と書類をめくる音だけが響く。  望の隣で仕事をしている和也だって、さっきから望のため息しか聞いていない。 「……ったく。 望って本当に分かりやすいのな」 「何がだよー……」  和也の言葉に反応はするものの、何だかこう、何も考えていないような感じの望。  そう、どこか気が抜けているような感じだ。 「だからさぁ、雄介と別れてからの望だよ」 「別にー、変わった所はあまりないだろ? 今回はちゃんと仕事はしてるんだしさ」 「まぁ、確かにそこはそうなんだけどさ。でも、こう気が抜けてるって感じが俺には伝わってくるっていうの?」 「そうか?」  そう、返事のようなめんどくさいようなため息に似た感じとでもいうのか、その返事の仕方に、和也までも気が抜けてしまいそうな気がして、仕方がない。  とりあえず、望のことは放っておいて、自分の仕事を始める。

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