236 / 1471

ー天災ー57

 和也が本格的に眠りに落ちた後、部屋の中は静かな空気に包まれた。  今、彼らの間には何もない。 音も光も、感じられない世界。  会話が途切れると、部屋には時計の針の音しか聞こえない。  そして、未だに望は雄介を許せていない。 だから、和也が眠りについた後も二人の間には何もなかった。  だが、雄介は望に叱られる覚悟で彼の背後に近づき、彼を抱きしめながら告白する。 「本当に、ごめんな……。 それに、無事でよかった」  望は雄介の腕を振り解くことなく、机に向かって仕事を続けた。  しばらくの間、雄介の独り言しか聞こえなかったが、彼も望に無視されることは予想内だった。  ただ抱きしめられて、望に腕を解かれないだけでも満足だった。 「……しょ、しょうがないな」 「……え?」  やっと口を開いてくれた望だが、まだはっきりとは声が出なかった。 小さな声だったため、雄介の耳には届かなかった。 「しょうがないって言ってるんだよ……。 俺たちの仕事は人を救うってことだからな。 お前は優秀な消防士だったんだろ? だから、レスキュー隊の訓練を受けられたんだろうし。 だから、他のところでもお前のことが必要だったんだろうぜ。 だから、しょうがないって言ってるんだよ。 俺たちのことは仕事の次だろ?」 「ああ……まあ、そうやんなぁ」 「じゃ、それでいいだろ……。 それに、神様は試練を与えてるかもしれないけど、こうしてまた、俺たちに会える機会をくれたんだろ? なら、それでいいんじゃないのか?」  そう言うと望は雄介の顔を見上げて微笑む。  雄介もその望の笑顔に応えるように、彼女に笑顔を返すと、やっと二人の視線が交わった。

ともだちにシェアしよう!