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ー天災ー68

 もしかしたら望は寝たフリをしているのかもしれないのだが、それに気付かないフリをして雄介は望の頭を撫でる。  今はとりあえず恋人といるだけでも幸せなのかもしれない。  雄介が違う土地に行ってから数週間いや、数日位なのかもしれないのだが、雄介は望と離れていた。 しかも何も望には告げずに違う土地へ行ってしまったのだから、雄介の心は穏やかではなかったはずだ。そして後悔。 なぜあの食事会の時に自分は望に素直に伝えられなかったのだろう。 望に言われた通りに望に異動のことを告げていたのなら、こんなにも後悔しなかったのに……。 だがどうしても雄介の口からはそのことについては出てこなかった。 そうだ、一緒に住み始めてすぐのことだったから、相手のことを悲しませたくないと思ったことがいけなかったのだろう。 望も言っていた。 逆に言ってくれた方が心の準備もできていたかもしれないと。 今回のことについては雄介が考えすぎだったのかもしれない。 よくよく考えてみれば望の言う通りだ。 確かに望にちゃんと異動のことを告げて違う土地に行っていたなら、後悔なんかしなかっただろうし、さっき望が言っていたのだけど、自分の方にも心の準備というものができていたのかもしれない。 「俺……馬鹿みたいやん」  そう呟くと雄介は目を閉じる。  そして次の朝、一番最初に目を覚ましたのは雄介だ。  いつもなら鳥の鳴き声や車の走る音が聞こえてくるはずなのに、今は全くその音は聞こえてこない。 多分動物たちは第六感というものが働いていて、今は違う土地で暮らしているのであろう。 「変に静かになってしまったんやなぁ」  そう雄介はため息混じりに欠伸をする。  本当に音も何も聞こえない世界。  初めてここに来た夜は光を全く感じられなくて、今日は今日で音さえも感じられない世界だ。  雄介はベッドの中でモゾモゾとしていると望の方も目を覚ましたようで、 「ん? 何してんだ?」 「へ? 何もしてへんやんか……寒いからくっついてようって思うただけやし」 「どこか寒いんだよ。 寧ろ、今は暑い位だろうーが……」 「まぁ、そういう事になるんかな? とりあえず、何もしてへんから安心して。 ただ起きてボッーとしとっただけやから。 なんやろ? こう朝が静かになってもうたなぁって思ってな。 ほんで、まだ時間あるか? ってか……もうちょい今日はゆっくり寝てようって思うておったら望が起きてきたって訳だし」  そう雄介は説明すると仰向けになる。 「そうなのかよ……」

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