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ー天災ー76
たった一言『抱き締めて欲しい』と口に出来ない望。
望はそれを言うのを諦め、ベッドの上で俯いていた。
だが何故か、雄介の方は先程の余震から望から離れようとしない。
「望……大丈夫か?」
雄介はそう言って望の頭を撫でる。
「望が地震で大変な目に遭ってるっていうのに、直ぐに来れなくてスマンかった。 だけど、今は……こうして望と一緒に居られる事が幸せなんやからな」
雄介は撫でていた頭から今度は背中を撫で始める。
そんな雄介の行動が望にとって心地良かったようだ。
そして雄介は愛しい恋人の名前を呼ぶ。
「なぁ……望……」
「ん?」
雄介の優しいく呼ぶ声に無意識だったのか答える望。 その声が雄介からすると誘われているような気がしてならないようだ。
今は病院の時とは違い、二人だけの世界。
だから変にそう考えてしまっているのであろう。
今にも雄介はその望からの誘惑に負けそうになる。 でも世の中が一番大変な時に、やはりそういう事は不謹慎な事だと思ったのか頭を振ってどうにか保たせようとしているようだ。
雄介はそう思うとひと息吐き、
「ほな、そろそろ、戻ろうか?」
そう言いながらゆっくりと望の上から退いていく。
その言葉と同時に望の背中が軽くなった。 そこに寂しさを感じる望。
雄介と居られるのは後少しだけ、そうだ今雄介は仕事でここに来ているだけなのだから、それが終わってしまったら帰ってしまう。 また望の元からいなくなってしまうという事になるだろう。
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