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ー天災ー84

 そうだ、これが終わってしまうと、また恋人のことを悲しませなきゃならない。  もう既に一回悲しませてしまっているのに、もう一度悲しませなきゃならなくなる。 やはりそこは救助活動とはいえ、今回ここに来なければ良かったとさえ思えてきているのかもしれない。  今日だってそうだ。 望は雄介のことを求めてきた。  それはもう望だって雄介のことが好きだっていう証拠だ。 やはり今まで少し離れていた分、望の方も雄介がいない寂しさを知ってしまったからであろう。  でもこの状況で求められても、流石の雄介だって「うん」と素直には答えられなかった。 ここがこんな状況じゃなければ、きっと素直に望の求めていることに応じていただろう。  雄介は望の方へと寝返りを打つと、ハッキリとは見えないものの、望がこう寝息を立てて寝ているであろう姿を見つめる。  今はこんな状況で、こう隣に恋人がいるのに触れてはいけないような気がして仕方がない。  そう隣にいる恋人に触れてしまったら、心の奥底にある理性がプツリとしてしまいそうで、それも怖い。  それほどまでに雄介だって望のことを求めているのだから。  今、本当にギリギリの状態で、雄介の理性というのは保たれているのであろう。 この理性が本当に切れてしまった時には、自分自身さえも本当に押さえが効かない状態になってしまいそうなのだから。  雄介は今度、望とは反対側を向く。  今日はもう本当に体が休もうとしない。 何度瞳を閉じても、意識が飛びそうにもなかった。  そう、意識があると、雄介の頭に出てくるのは望のことだけだからだ。

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