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ー天災ー86
雄介がゴロゴロしている間にも、一人寝れていない人物がいた。
そう、雄介の隣で、雄介とは反対側を向いて寝ているフリをしているのは望だ。
雄介が寝れないでいるのを望は知っていた。 そして自分に近付いて来ていたのも知っている。
その一瞬、雄介の行動に期待していたのだが、雄介は直ぐに反対側を向いてしまっていた。
久し振りの再会なのに、今は何もできていない。 恋人がこんな隣にいるのに何もできない状況だからだ。
確かにみんなが大変な時に、とは思うのだけど、でも自分たちだって本当に本当に久しぶりで、キスぐらいはとは思っても何かしらストッパーがかかってしまうのだから。
今まで少し離れていたのだからいいとは思うのだが。
そうだ、まだまだ考え事はある。
望は最初、男には興味はなかった。
だが雄介には何でだか惹かれていたようにも思える。
気付いた時には、雄介に恋の魔法に掛けられていた。 そう、気付いた時には雄介には夢中になっていたのだから。 恋の魔法というのはなかなか解けてはくれない。 いや、それが解けてしまったら別れることになるのだから、そこはそのままでいいのであろう。
だって望は完全に雄介に惚れている。 今日の昼間だって、自分は雄介に行動を起こしてしまっていた。 そう、雄介のことを自分から誘ってしまっていたのだから。
好きだからこそ甘えたい。
今までの自分では考えられないことだったのだけど、こう雄介が望という人間を動かしてくれた人物だ。
それに今日は甘えさせてくれるような気がしたから、望は自然と甘えてしまったのかもしれない。
望は人に甘えるということは知らなかった。 だけど雄介は優しいというのか、包容力があるというのか、何か分からないのだけど、一緒にいたいとか、くっついてみたいとか、そういう風に思っていた。 だけど女性みたいに甘えるようなことができないような気がして、自分の中で何かこう抑えられてしまっているのかもしれない。
でも本当に今は雄介のことが好き。
この前の時だって、雄介に会った瞬間、叩いてしまっていた。 あの感情は一体なんだったんだろうか?
多分、何も言わずに勝手にどこかに行ってしまった雄介に何かこう、「心配してたんだぞ!」みたいなことを教えたかったからなのかもしれない。 それと悲しみ等をぶつけてしまったということもあったのであろう。
でも逆に本当に雄介のことが好きじゃなかったら、きっとあんなことはしなかったんだと思う。
それは望からしてみたら人に対して初めての感情だったからだ。
望は大きなため息を吐くと、今まで雄介とは反対側を向いていた体を雄介の方へと向けるのだった。
だけど雄介はもう完全に反対側を向いてしまっているため、少し切ない顔を見せる望。
今はもう雄介のことが好きなのだから、この背中を抱き締めたい。 だけどこう行動までに望は時間が掛かる。 素直な自分ならこのまま雄介の背中を抱き締めているであろう。 だけど甘えられる時と甘えられない時の自分がいるらしい。
確かに雄介のことは好きだ。 そして自分はよっぽどのことが無い限り自分から好きとか甘えるとか、そういうことは出来ない性格だということにも気付いた。
そう、恋に対して心と体が一致してくれない。
望は抱き締めたいという行動が出来ずに、そのまま瞳を閉じるのだった。
明日もまた仕事だ。 今もまだ助けを求めている人達がいるのに、自分の体はなかなか休もうとしてくれないのは、きっとプライベートで悩みがあるからだろう。
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