372 / 503

ー空間ー38

「べ、別にそんなんじゃねぇんだけどさ。 いつも、望と食べに行くというと焼肉だったしさ……だから、いつもの癖というのか、日頃のパワーを付けに行くというのか、ってか、普通のカップルだったら、逆に焼肉屋とかって行かなくねぇ? ま、半分はふざけて言ったんだけどさ、まさか、裕実がそんな風に思ってるとは思ってはなかったぜ。 もしかして、裕実がそんな事を口にするって事は……その後の事を期待してたんじゃねぇのか?」  そう和也は上手いように形成逆転を果たすと顔をニヤケさせる。  一方、裕実の方は今の発言で自爆というのか自分が思っていたことが口に出てしまったというのか、そんな事を口にしてしまった裕実の方は顔を俯け真っ赤にさせていた。 「お前が期待してくれてるんなら、俺は別に構わないんだけどな」 「き、期待なんて……」 「ん? 何だ?」  和也は裕実が何が言いたいのかが分かっているのか、わざと聞いているらしい。 「まぁ、それだけ、裕実が俺の事好きだって思ってくれているなら、俺的には凄く嬉しいんだけどな。 俺だって、初めてお前に告白した時、本当は夢じゃないかと思ってた。 俺さ、本当は望の方が好きだったんだけど……でも、ずっと仕事で一緒で、もし、告白して断られたら自分達の関係が崩れてしまうんじゃないかと思って告白してなかったんだけど。 雄介が入院してきて、先に雄介に告白されちまって、しかも、それに焦った俺は何も考えずに望の事抱いて、だけど、こう虚しかったっていうのかな? こう心が通じてないで体を重ねても意味がないっていうのが分かったっていうのかな? やっぱ、想いが伝わってない抱き方ときちんと想いが伝わってる抱き方は違うんだっていう事がその事で分かったっていうのかな? だから、俺はキッパリと望の事は諦めたんだ。 そして、今度は雄介と望の事を応援するようになったら、なんていうのかな? 俺にも幸せが来たって感じがしてんだよな……それが、お前なんだよ……」  和也は車を運転しながらも今までの事を裕実に話すのだ。 「なら、僕達は雄介さんや吉良先生以上に幸せになりましょうね」 「……へ? あ、ああ……そうだな……」  和也は素直過ぎる裕実の言葉に逆に拍子抜けそうになっていた。 そう望と話をしていると素直じゃなかったから、こう素直な言葉には慣れていないのかもしれない。  何だか今は裕実を恋人にして良かったとさえ思える。 今はもう本気で裕実の事を好きでいる和也。  そう裕実という人物は和也が思った以上の言葉を返してくれて和也の事を喜ばしてくれる。  あの時、和也は望の事を諦めていなかったら?  あの時、裕実が和也の前に現れなかったら?  今頃、和也はこんなにも幸せな状況にはなっていなかったのかもしれない。

ともだちにシェアしよう!