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ー空間ー100
「吉良先生……おはようございます」
「ああ、おはよう」
裕実の方は助手席のドアを開けると笑顔で望に向かって挨拶をしてくる。
望は裕実とはプライベートでは初めて会ったのだが、病院の時と変わらずクールなオーラを漂わせていた。
そこで望は口を開く。
「本宮さんさ……プライベートでは『先生』はいらないかな? それ以外だったら、どんな呼び方をしてもいいからよ」
「え? はい……分かりました。 でも、何てお呼びしたらいいんでしょうか?」
裕実はシートベルトをしながら望の方を見つめる。
そう裕実に言われて望は俯き、何やら恥ずかしそうにしていた。
確かに自分は裕実に『先生』以外だったらいいとは言ってみたものの、まさか裕実にそう聞かれるとは思っていなかった。
そんな望の様子に気付いた和也は、
「だから、裕実……望はな……早く言えば名前で呼んで欲しいんだって。 なんていうのかな? やっぱり、仕事とプライベートは違うだろ? だからかな?」
まさに和也の言う通りなのかもしれない。
望は和也の恋人が裕実になった時から、そう考えていたのだが、なかなか裕実との接点というのか、こうしてプライベートで話すことはなく、やっと今日言えたものの、望の方は結構口下手な方だ。 だから裕実にはこう上手く伝えることができなかったのかもしれない。 だけど和也のおかげで上手く伝わっているであろう。
そして和也の意見と望の意見を聞いて、裕実が出した答えは、
「では、望さんでいいんですかね?」
裕実の方はそう笑顔で言うと、望の方も微笑み、
「ああ」
とだけ答え、流れていく景色を眺めてしまうのだ。
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