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ー空間ー226

 ここから車で十五分ほどのところに空港がある。 雄介はきっと空港から近い場所を選んだのだろう。  先程いたお好み焼き屋までは話が盛り上がっていたが、今、車の中ではさっきのが嘘のように静かな二人だ。  そう、もう刻々と別れの時間が近づいていることを理解しているからかもしれない。  ナビの音と雨が窓に打ち付け、時折ワイパーが動作する音しか聞こえてこない。  何かを話してしまえば、何か禁句のようなことを言ってしまいそうで、二人とも今は口を開けないようだ。  そして、二人が静かなまま車はあっという間に空港の駐車場に到着してしまった。  駐車場に着いた以上、もう後は降りるしかない。 二人は車から降り、ターミナルの方に向かう。  ターミナルの方は今の二人とは対照的に賑やかに見える。 今の二人にとっては騒々しいほどだろう。  雄介は先に行ってしまった望に追いつくと、公共の場であることを忘れていたのか、それとも望とはここで一旦お別れだという意味なのか、望を抱きしめる。  少し服が雨に濡れていたのであろうか、雄介が望を抱きしめた時に感じたのは少し冷たい体だった。  そして、雄介は望の耳に向かって詫びの言葉を囁く。 「スマンな……お前、公共の場でこういうことは嫌だって分かってるんやけど……とりあえず、今は俺のわがままだと思って許してくれへんか?」  そこまで言われると、流石の望も怒る気がないのか、それとも望も望んでいたことだったのか、そこは分からないが、望は大人しく雄介に抱かれているようだ。 「ほな……」  そう雄介はいつもの明るさで言うと、望の体を離す。 「ああ……」

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