623 / 1491

ー雪山ー52

 雄介は笑顔で言うと立ち上がり、 「ほな、洗濯機も早よ。洗濯干してぇな……って言うとるみたいやし、洗濯してくるな」 「あ、ああ」  望は、そう言って行ってしまった雄介の背中を見送る。  雄介がいなくなると、大きなため息を漏らす望。  なんだか今日は久しぶりに緊張したような気がした。今やっと雄介が部屋の外に行って緊張が解けたような気がしたからだ。 「……ったく、好きに決まってるだろうが。ただ、雄介を目の前にすると上手く言えないだけで」  そう望は、誰もいない部屋で呟く。  しばらくして、雄介は洗濯カゴの中に洗濯物を入れてリビングへと戻ってくる。  雄介は望の後ろを通過すると、庭に続く窓を開け、サンダルに履き替えて真っ直ぐに洗濯竿の下へと向かう。  望はその雄介の後ろ姿を追っていた。 「やっぱ、雄介って何をやらせてもカッコいいよなぁーってか、画になるっていうのかな?」  望はソファの縁に顎を当て、庭で洗濯物を干している雄介の姿を見つめている。  今日は雲一つない青空。太陽が眩しいくらいに地球へと光を注いでいる。雄介の左側からは、完全に登り切っていない太陽が雄介の左半身に当たっていた。雄介は暑いのか、それともスウェットが邪魔だったのか分からないのだが、腕捲りをして洗濯カゴに入っている洗濯物を次から次へと干していた。  いつも二人が休みの時には二人でやっている仕事なのだが、今日は望が怪我をしてしまい、そのせいで雄介は一人で家事をやってくれている状態だ。  だが、そのおかげで、望は普段見れないような雄介の姿を見れているのかもしれない。  ちょっとだけ、その時間が幸せに感じるのは気のせいだろうか。  だって、雄介が洗濯物を干している姿なんて自分だけのもの。そんな姿は自分だけしか見れないのだから、そこは恋人の特権とでも言えるのかもしれない。それが幸せに感じた所なのだろう。  雄介は洗濯物を干し終えると、部屋の中へと入ってくる。

ともだちにシェアしよう!