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ー雪山ー51

 望は普通の大きさで言ったはずなのに、ちょうど口に手が当たっていたのと、雄介とは反対側を向いていたせいで、うまく雄介には望の言葉が伝わっていなかったのかもしれない。だから、雄介はもう一回聞き直す。 「そう何遍も同じことを言うわけがねぇだろ? 俺はお前のようにそういうことを言うのに慣れていないんだからさ。言うのだって、まだ恥ずかしくて仕方ないんだからさ」 「……ってことは、俺にとってええことを言ってたってことやんな?」 「どうだろうな……」  望はわざと首を傾げてとぼける。  望はとぼけたつもりだったのだが、雄介の方は急にバタバタと走ってきて望の隣へと座るのだ。 「ほなら、好きか嫌いか? くらいは言ってくれへん?」  そう雄介は真剣な眼差しで望のことを見つめる。  いつもヘラヘラしている雄介なのだが、その真剣な瞳に、さすがの望も目を背けることはできない。 「もう、恥ずかしいこと何遍も言わんくてもええから、たったその一言だけ、言うてくれへんかな? それだけで俺の方は安心できるし」  その雄介の真剣さに負け、望は一瞬だけ雄介から視線を外すと、再び雄介の方へ視線を向ける。 「俺は……本当に……雄介のことが……好……」  と、望が言葉を最後まで言い切らないうちに、洗濯機がご丁寧に終わりましたよと機械音を鳴らしてくるのだ。  こういう大事な時に、機械というのは空気が読めないというところだろう。むしろ機械なのだから空気を読めるわけがない。  望はその音で急に現実に戻ってきたような感覚に襲われ、顔を俯かせてしまうのだ。  今まで真剣に頑張って言おうとしていたのに、洗濯機の機械音でぶち壊しにされてしまったようにも思える。  雄介は一つそこで息を吐くと、呆れたように言葉をつなげるのだ。 「やっぱ、神さまっていうのはいるんやな。せや、無理やり、俺が聞こうとしたのが悪かったんやし、やっぱ、こういうのは自然に出てきた時に聞くのがええってことやしな」  雄介はそう言って洗濯機のある方を指差す。 「あ、ああ……」  今の望はそう答えるしかなかった。 「それに、せや! 望には聞くんやなくて、望自ら言った時に聞くのがええわけやしな……」

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