621 / 1095

ー雪山ー50

「人って怖ぇよなぁ。恋人がいるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるなんてさ。それに、もう、雄介が目の前からいなくなることがあり得なくなっちまってるしさ……」  望はそう部屋でぼそぼそと独り言をぼやいていると、洗濯機が回り始めたのだろう。その音が部屋内に響き渡り始める。  医者なのだから、電化製品とかは最新型のを買えばいいのだろうが、まだまだ現役で使える洗濯機を捨てるわけにはいかず、やはり完全に壊れてから捨てるのが妥当だと思っている望。だから洗濯機が回り始めるとその音が部屋の中に響いてしまう。  雄介は洗濯機が回り始めたのを確認してからなのか、望がいる部屋へと戻って来た。  そして、望の前にあるソファへと座ると、 「足の方は大丈夫なんか?」 「あ、ああ、大丈夫だ」 「ほんなら、ええねんけど。つーかさ、なんでさっき皿洗ってるときに動揺したん?」 「それは……お前が思い出させたんだろうが」  望は顔を赤くしながら視線を逸らす。 「それじゃあ、意味が分からへんねんけど」  雄介は意味が分からないと言いながらも顔をにやにやとさせているところから、意味は分かって言っているのかもしれない。 「あのなぁ、分かってるくせに聞いてくるんじゃねぇよ……お前は顔や態度に出やすいタイプだな」 「でもな、やっぱ、そこは言葉で言うてくれへんと分からんところやんか。そりゃ、合ってるのかもしれへんし、合ってないかもしれへんしな?」  雄介はテーブル越しに望の胸を指で数回叩く。 「……ぁ」  望は小さな声をあげると、雄介のその行動に雄介の指と雄介を交互に見つめるのだ。  その望の行動に笑顔を見せる雄介。 「ホント……お前には色々と恋愛に関しては教わるよな?」  望はソファの背もたれに寄りかかると、肘を背もたれの縁へつけ、顎に手を乗せて庭の方へ視線を向ける。 「そうか?」 「ああ、まぁ、俺の方が今はお前の側にいたいって思ってるくらいだからな」

ともだちにシェアしよう!