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ー雪山ー57

 今度は雄介の方が望の方へと体を向け、望の腰を抱きしめている。 「ちょ……」  そうだ。雄介という人物は、そういうことをいとも簡単にやってくれる。  そして、 「……こうしたかったんやろ?」 「あ、いや……別に……」  雄介の言葉にいつもの調子で答えてしまう望。 「なーに言うてんねん。動揺したってことはそういうことやんか」 「ぁ……まぁ……」  雄介はまるで望の心の中を読んだようにそう言った。  そこまで言われると答えられなくなってしまった望は、雄介の方へと体ごと向けて、 「ああ、そうだ……たまには、俺からお前のこと抱きしめてみたかったんだけどな」  そう顔を赤くして言う望。そんな望が可愛かったのか、雄介はクスリと笑って、 「たまには望がそう素直なとこもええもんやな」 「そこ、笑うところじゃねぇから」 「スマン、スマン。確かにそこ笑うところじゃなかったな。たまにはこういう時も幸せな感じせぇへん?せやから、笑ったっていうのもあるんやけどな」  雄介はそう言いながら望の頭を撫でる。  その雄介の行動さえ、今は幸せを感じているのかもしれない。  どうして恋人がやってくれる些細なことでも人間っていうのは幸せに感じられるのだろうか。  雄介は望の頭から頬を辿って撫でていると、どうやらあることに気付いたようだ。 「望……まさか、熱あるんと違うか!?」 「そうか? 多分、お前が俺のことを辱めるからだろ? だから、体内から熱が起こって、顔が火照ってるからなんじゃねぇのか?」 「ホンマかそれ? 自分の体だからって、誤診しておるんじゃないやろな? 俺の方はホンマにそこは心配しておるんやぞ」 「大丈夫だって、お前に心配されるほどじゃねぇからよ」  そんなことを言われても納得できない雄介は立ち上がって、先程持って来ておいた薬箱の中から体温計を取り出し、望に渡そうとする。 「とりあえず、これで熱計ってみて」 「だから、大丈夫だって言ってんだろ?」  望は少し頭を起こし、肘と腕だけで体を支える格好で雄介のことを見上げる。

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