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ー雪山ー58

「体温計って何もないようなら、何も言わへんけど! でも! 体温計るまでは安心できんしな」  流石に雄介にそこまで言われると、望は仕方なく雄介から体温計を奪うようにして取り、体温を計り始める。  そして一分後。体温計が熱を計りましたよと音を鳴らして知らせてくる。 「これで、問題ねぇだろうが……」  そう望は自信満々で雄介にその体温計を渡したが、その体温計で計った熱を見た雄介は険しい表情をしていた。 「何が問題ないんやって!? 望の視力やと八が六に見えてたんか?」 「はぁ!?」  そう雄介に言われて望は自分で計った体温計の数値を見る。確かに雄介の言う通り、三十八度一分もあったらしい。 「別に風邪引いてるって感じがねぇんだけどな? なんで、こんなにあったんだろ?」 「多分、日頃の疲れが出てきたんやろ? 最近の望、まともに休んでる暇がなかったみたいやしな。せやから、神様がそろそろ体を休ませろって言うてるんと違うか?」 「まさか……そんなことがあるわけねぇだろ? でも、体温計の熱見ちまったら、急に体が怠くなってきたような気がする」 「ほなら、部屋に行くか?」 「ああ……」  その雄介の質問に今の望は即答える。いつもの望なら、そこで顔を真っ赤にして、なかなか答えないものの、今日の望に関しては即答していた。ま、人間は病気や怪我をすると心の中が弱くなるっていうけど、今まさに望がそんな状態なのかもしれない。  とりあえず望に了承を得た雄介は、望のことを抱き上げて二階の部屋へ運んでいく。  今日は青空だったから布団を干してしまったのだが、雄介は望をベッドの上へ寝かせると、ベランダに干しておいた布団を持って来て望に掛ける。 「スマン、俺が望に無理させとったみたいで……」  雄介はそう言いながら望に布団を掛けると、ベッドの端へ腰を下ろす。 「そこ……気にする所じゃねぇよ。だって、昨日は俺がお前のこと求めてたんだからな」

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